宴会の盛り上げ役として春闘で「ベースアップ選手」を演じた

そんなふうに疎外感を抱いている人間なりに職場に貢献できることはないかと考えて見つけた居場所が、イベントの際の盛り上げ役です。外国の企業でも職場のメンバーの誕生日などに張り切ってサプライズを用意することがありますが、日本では誰かが退職する際の送別会など、みんなで飲み会をする機会がたくさんあります。そういった宴会で一発芸や余興をやったりして場を盛り立てる文化がありますが、私は仕事以外の部分で、私らしさが発揮できるところで役に立とうと思って本気で取り組みました。

温泉への社員旅行の際には扇子を5つ使った芸を披露し、労働組合で春闘の際には脚本・演出を担当して劇をやりました。春闘の期間は会社を相手に戦って仕事をボイコットしているという体ですから「労働時間」ではありません。したがって、その時間に仕事をしてもし何か事故があっても労災保険の対象外になってしまいます。ですからその時間、社員は働かずに待機が発生します。

でもただ何もせずに待っているとつまらない。だから下の年次の人間が待つ間に余興をやるのです。それを聞いた私は若手を10人ほどまとめて座長になったのです。私自身も「ベースアップ選手」という給料を上げるために働く役として出演もしました。

ティムラズ・レジャバ氏
日本再発見』より

温泉旅行では部長にフライング土下座の一発芸でアピール

日本企業は営業成績のような明確で数字で出るものだけではなく、職場を盛り上げる存在であるかといったコミュニケーションも人事評価の一要素になっています。私が海外営業部に配属されたきっかけは、温泉旅行で部長に対してフライング土下座の一発芸をしながら「行かせてください!」と直訴したからです。そもそも私を海外要員に起用する構想はあったのでしょうが、しかし私が日頃から余興の場で存在感をアピールし、職場のムードメーカーとなっていたからこそ認知してもらっており、「1回やらせてみるか」と判断してくださった可能性も否定できません。

前回の記事では「日本企業は従業員に猶予を与えすぎている」と否定的に語りましたが、でももし「こいつは使えない」と判断したらすぐにクビを切れる環境だったなら、私は自分が何に向いているのか、どんな職場や業務なら働けそうなのか、何も見つけられないままあっという間に失業者になっていたでしょう。猶予のなかで自分がしたいこと、自分に向いていることを見つめる時間を与えてくれた日本の雇用習慣、そしてキッコーマンの社員に対するあたたかな接し方に感謝していますし、退職したあとになって改めて職場のみなさんのすばらしさを思い出す場面がたくさんありました。