一度食べただけでわかる、黄金ルーキーの予感
東急多摩川線・下丸子駅から徒歩2分。今年1月に誕生した新店「奈つやの中華そば」。
筆者は一度食べただけで、このお店が今年の新店を代表するお店のひとつになるであろうことを確信した。
目黒の不動前にある物件で昨年2月から間借り営業をスタート。9月まで営業をし、今年1月に下丸子に移り晴れて店を構えることになった。店主の平林利幸さんと妻・奈津子さんの夫婦で切り盛りしている。
店主の利幸さんは埼玉県川口市生まれ。実家は町の洋食店を営んでいた。
普段の夕食というと、お店の残りものであるフライやハンバーグを食べる毎日。世の子どもたちだったら喜んで食べそうなものだが、普段がこういう食事だと、たまに食べるインスタントラーメンが何よりものご馳走だったという。
ある日、友人に連れて行ってもらって食べた「ちゃぶ屋」のラーメンに衝撃を受けて、ラーメン食べ歩きを始める。当時運送の仕事をしていたので、トラックで各地を回りながらラーメン本を片手に食べ歩きをする毎日だった。
ここから少しずつラーメン店の仕事を意識するようになる。
店長に抜擢されても、独立の勇気は出ず
「実家が洋食屋ですし、もともと興味はあったんです。ですが、逆に飲食店のつらさも知っていたつもりなので、迷いに迷う数年間でしたね」(利幸さん)
27歳の時にラーメン店に修行に入る。
いよいよラーメンの世界に入ってしまうんだと、お店の前まで行って一回引き返そうかと思ったが、思い切って飛び込んだ。いつかは独立したいという何となくの夢を描きながら、基礎を学ぶ日々だった。
3年間働き、最後の1年は新店の立ち上げ店長に抜擢された。
ここまでは順風満帆だったが、独立に向けては何も準備をしていなかった。
「気持ちだけで何も行動ができていなかったんです。その後4年間はラーメン界から離れてプラプラしていました。この仕事は若いからできたことだったのかなとふと我に返って、決まらない今後に焦っていましたね」(利幸さん)
悶々とする日々の中、再び衝撃的な一杯に出会う。東京・学芸大学にある「麺処 びぎ屋」である。
清湯系のラーメンを作ってみたかった利幸さんは、これを最後のチャレンジにしようと修業を始める。34歳の時だった。
まさに理想の環境で、利幸さんはラーメン作りの技術に磨きをかけていく。限定ラーメンも任され、お客さんの反応も生で感じることができた。在籍中には『ミシュランガイド東京』のビブグルマンも獲得した。