種牡馬としての評価額は60億円
イクイノックスは、ノーザンファームグループが運営するシルクレーシングの所有馬。それだけにノーザンファーム代表の吉田勝己が、社台ファーム代表の吉田照哉(勝己の兄)、追分ファーム代表の吉田晴哉(ふたりの弟)とともに運営する社台スタリオンステーションで種牡馬入りすることは既定路線だった。
天皇賞(秋)の次走であり、2023年の大目標に設定されていたジャパンカップをもって現役引退が決まった。ジャパンカップを制覇すれば、国内賞金王となり、さらに同じ年のドバイシーマクラシックを勝っていたことから200万ドル(約3億円)の褒賞金を獲得できる。
イクイノックスは、思惑どおりジャパンカップを制し、年間世界ランキング1位のまま種牡馬入りした。種牡馬としての評価額は60億円規模だった(出資会員へ分配する総額は、維持費や莫大な保険金を引いた50億円だったそうだ)。
「もっと走りを見たい」という気持ちはわかるけど
余力のあるうちに引退したイクイノックスについて、2022年2月末に調教師を定年引退した藤沢和雄はこう語っている。
「これだけ素晴らしい競走成績を挙げ、すごく貴重な血統だけに、ジャパンカップを最後に引退して種牡馬入りさせたのは当然です。競馬は『もう一回使っても変わらないじゃないか』ではないんですよ。もっとイクイノックスの走りを見たかったというファンの気持ちはわかるけど、一回でも多く走らせるほど故障のリスクは高くなる。
素晴らしい競走成績を残した素晴らしい血統の馬を無事に引退させるのがオーナーや調教師の仕事。貴重な馬を無事に引退させて牧場に戻す。これこそ、我々ホースマンが大事にすべきことです。引退する馬に『自分よりもっといい子をつくってくれるだろう』と思ってやることがすごく大事なんです」
屈腱炎になっても現役を続行させようとしたナリタブライアン陣営と、余力を残して元気なまま種牡馬入りさせたイクイノックス陣営。時代が違うと言われてしまえばそれまでだが、2頭の名馬のうちどちらが人間のエゴによって翻弄されたかは語るまでもない。