2人はルートを途中まで登り返すなどして、あちこち捜し回ったが、それでも見つからなかったため、午後5時半ごろ、警察に通報したのだった。

桂子に連絡をした警察官は、「ご主人がまだ山から下りてきていないので、最寄りの警察署に捜索願を出しにいってください」と言って電話を切った。桂子はすぐに夫の母親に連絡し、いっしょに警察署に出向いていった。子供は、署に近い桂子の実家に預けた。捜索願を出すときに、「もう夜なので、今日は捜索できない。明日の朝から捜索を開始する」と言われ、夫の特徴を伝え、写真を提供して帰宅した。桂子がこう話す。

「もちろん動揺はありました。でも、今思うと、 まだ軽く考えていたと思います。ひと晩どうにかがんばってくれたら見つかるだろう、と」

「拡散お願いします」SNSでの呼びかけに反響が

捜索の拠点となった八代警察署は自宅から遠く、夫が行方不明になっている山はさらに車で奥深く入ったところだと聞いていた。すぐにでも現地に駆けつけたいと思っていた桂子に対し、義母は「私が行ってくるから、あなたは家にいて」と言った。言われてみれば、現地に行ったところで、登山経験のない自分が山に入れるわけがない。また、長男はまだ生後間もなく、頻繁に授乳をしなければならなかった。残念ではあるが、義母に従うことにした。

ただし、家にいてもできることはある。それはすべてやろうと思った。そして真っ先に行なったのが、SNSを通しての呼びかけだった。

「こうした場合、Twitter(現在のX)が解決の一手になったというニュースをときどき見ていたので、まずそれをやってみようと。もともとあまりTwitterは使っていかなったし、私のフォロワーは10人もいませんでしたが、やってみる価値はあるんじゃないかと思ったんです」

いちばん最初の発信は、捜索が始まった11日の午前7時40分。

〈#拡散お願いします。

熊本県八代市の国見岳という山で夫が行方不明です。登山中、8/10(水)13: 00 頂上付近を最後にその後行方不明となっており、現在警察と消防で捜索中です。(中略)少しでも情報を持っている方、DMください〉

これをツイートした直後から、登山を趣味としている人をはじめ、八代市在住者、八代の消防署に知り合いがいる人など、さまざまな人たちからたくさんの反響が寄せられた。たとえば、「登山者向けアプリへの登録はしていましたか」「ココヘリの会員になっていましたか」「ここ(民間の山岳救助隊、救助犬派遣団体、捜索ボランティア団体、ドローンサービス団体など)に連絡してみてはどうですか」「携帯電話の会社に直接連絡して電波記録を調べてもらったら」「クラウドファンディングの準備はしていますか」「SNSでの発信の仕方、注目してもらう方法を教えます」などなど。

山のことはなにも知らなかった桂子にとって、返信には初めて聞く言葉ばかり並んでいたが、見ず知らずの彼らはいろいろなことを親切に教えてくれた。そしてそれらのアドバイスに従い、できることはすべて実行した。