娘に「お父さんは帰ってこない」と言わなければ…

だが、捜索3日目となった13日も、なんら手掛かりは得られずに一日が終了した。この日の捜索を終えたという連絡を受けたとき、初めて「もしかしたら、もうダメかもしれない」という思いが桂子の頭をよぎった。

「娘に『お父さんはもう帰ってこない』と言わなければならないのか、そうしたら娘はどんな顔をするのか、娘はなんと言うのか、嘘つきと言われるのか、などと考えてしまいました。その一方で、山のなかでひとりで助けを待っている姿が想像でき、『夫はきっと自力でがんばっているに違いない』とも思えました。協力してくれる方々がたくさんおられたので、絶対に諦めない、見つかるまでこちらが諦めてはいけないと、自分を奮い立たせました」

娘の前では泣かないように努め、できるだけ笑顔でいるようにした。4日目以降も、ただ無事を祈り続けるのではなく、自分ができる限りの、「発見につながる意味のある行動」をとるよう心掛けた。ちょっとでも時間ができればTwitterを確認し、各方面の人たちと連絡を取り、提案された手段があれば、それをひたすら試した。そしてその結果を、提案してくれた人に感謝とともに報告した。

だが、成果なく捜索が終わった15日の夕方、警察から「本日を以て捜索を終了する」と告げられた。それでも諦められない桂子は、Twitterに次の投稿をした。

〈本日8/15も手がかりなく捜索が終了してしまいました。本日で警察での捜査は終了とのこと。協力してくださったボランティアの皆様、本当にありがとうございました。もし、この先もご協力頂けるという方がいらっしゃればお声がけ頂ければ幸いです〉

〈自身でも調べておりますが、九州地方で山岳捜索を依頼できるような会社や団体をご存知の方がいらっしゃったらアドバイスください。有料でも構いません。どうかよろしくお願いいたします。夫が昼も夜も一人で救助を待っているかと思うととてもつらいです〉

このときの心境について、のちに桂子はこう語っている。

「もうダメかなと思ったこともありました。でも、待っていると想像がつくかぎり、眠ると申し訳ないんです。食べると申し訳なくなるんです。どっちにしても見つかるまでやり続けないと、この辛さは拭えない。もし自分だったらと考えても、すごく怖いし、耐えられない。一刻も早く見つけたい。安心させてあげたい。その一心でした」

一方、山中にいる夫の状況は

遭難して7日目、夜が明けて16日の朝が来た。もうほとんど動くことはできなかったが、少しだけ戻ったところに、今いるところよりももっと開けた場所があることを思い出した。ヘリで見つけてもらうことに望みを託し、そこまで移動した。その場所から背後の斜面をちょっと登ると、崩れた土砂の隙間から湧き水が流れていた。水筒に水を汲み、開けた場所まで戻って、ヘリが飛んでくるのを待った。