「掛け金を増やすこと」が狙いなのは明らか

受取額の増加に歯止めをかける方法として「マクロ経済スライド」が導入されている。いきなり年金を減額するのは反発が強いため、賃金や物価の上昇分をそのまま年金額に反映させるのではなく、給付の増加を少しずつ抑える方法である。実際、2022年の物価上昇は2.5%だったが、2023年度の年金改定率(68歳以上)は1.9%に抑えられた。

岸田文雄首相は物価上昇率を上回る賃上げ、と言っているが、年金生活者については、年金支給額を物価上昇率以下に抑える方法を採っている。つまり高齢者は実質収入が減っていくわけだ。

年金額を下げる抜本的な方法には年金支給年齢を65歳からさらに繰り下げるという手がある。だがこれだと定年退職後、無収入の期間が生じるリスクもあるため、そう簡単には踏み出せない。

前述の2つのうちの2つ目が、掛け金(保険料)の引き上げだ。かと言って一人ひとりの掛金額を上げると生活を圧迫する。そこで出てきたのが掛金の支払い期間を5年伸ばすという案というわけだ。5年支払う期間が増えると、年金の手取りが増えます、と政府は強調するが、実際のところは掛け金を増やすことが狙いなのは明らかだ。

年金手帳
写真=iStock.com/Wako Megumi
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今、高齢者が受け取る年金は現役世代が支払っている

それぐらい、将来にわたる年金財政は厳しい。

ではなぜ、「100年安心」と言うのか。実質的な給付額を抑えて、掛け金を引き上げていけば、制度としては100年もつ、というのは嘘ではない。ただし、その年金額で安心に生きられるか、100歳まで生活に十分な年金額を受け取れるか、というとそういう意味ではない。あくまで年金官僚の立場からみた「制度は安心」という話にすぎないのだ。このロジックでいけば、国民の多くが危惧する「年金制度の破綻」は起きないということになる。だが、生活が破綻しないと言っているわけではない。

年金に関して、もともと政府は嘘をついてきた。嘘というよりあえて誤解を助長してきた。年金をもらっている高齢者の多くは、自分が受け取る年金は自身が積み立ててきた原資から支給されていると思っている。現役時代に積み立てたお金から年金が支払われる方式を「積立方式」と言うが、多くの国民は日本の年金は積立方式だと無意識に思い込んでいる。だから、「あんなに高い年金掛け金を支払ってきたのだから、年金をもらうのは当然」という発想になる。

だが、日本の公的年金は「賦課方式」と言って、今、高齢者が受け取っている年金は、現役世代が支払っている保険料で賄う形を採っている。一部は年金基金として運用されているが、基本的には現役世代が支払っているのだ。