なぜ豊田会長だけがEVの限界を見抜けたのか
米国の経済ニュースを紹介する「US FrontLine」が出した2023年9月5日のオンライン記事にはこんなことが書いてある。
「S&Pグローバル・モビリティー(自動車情報のニュース会社)は、今後5年間でHVは3倍以上増加し、2028年には米新車販売の24%を占めると予測。完全EV(BEV)の割合は約37%で、低出力モーターを備えたいわゆるマイルドハイブリッドを含む内燃エンジン車(ICE)は40%近くになると見ている。23年の米自動車販売に占めるHVの割合は7%、完全EVは9%で、ICEは80%以上を占める見通し」
ちょっと前までべヴだべヴだと言っていた専門家たちが今の時点では、新車を買うならHV、投資するならHV車の生産設備と考えを変えたようなのである。
前述のように、この数年間、「すべての車を開発する」と言っていたのがトヨタだ。現会長の豊田章男は一度もブレることなく、マルチパスウェイという言葉を使って、トヨタの開発計画について説明していた。そして、「トヨタ生産方式に則って車を作る」とも言ってきた。
同方式の原則は「必要なものを必要な時に必要なだけ」届けること。わかりやすく言えば、ユーザーが望む車をユーザーが必要な時に、ユーザーが必要なだけ提供するということだ。BEVがいいのかHVがいいのか、ガソリンエンジン車がいいのかを決めるのはユーザーだとしている。
過去最高益を支えた「時代と状況への対応力」
考えてみればどんな商品であれ、売れるか売れないかを決めるのは会社ではなく消費者だ。豊田章男は当たり前のことを言ってきただけで、BEVの開発に鈍かったわけではない。しかし、メディアの大半は「トヨタはEVについては周回遅れ」と数年間、報じてきた。
さて、わたしはトヨタが市場の要望に合わせて車を作ってきたことを知っている。生産工場を見学すれば一目瞭然だ。工場の組み立てラインの大勢を占めているのは人気車種だ。ほかは、少数の客の要望に応えた車が少量多種で流れている。そして、今のトヨタ工場のいくつかではベルトコンベアは廃止され、AGV(自動搬送装置)になっている。
トヨタは変わる会社であり、変化に投資する会社だ。ICE車やHV車に固執しているのではなく、ユーザーが望む車を少しでも早く届けることを考えている。そのために生産設備全体をカイゼンして、状況の変化に対応している。
トヨタが利益を上げているのはHV車に固執したからではない。時代と状況への対応力があるからだ。変化への対応力もまたトヨタ生産方式の賜物である。冒頭に挙げた仕入れ先、販売店への人的投資は変化への対応力を強化するための投資だと思える。自社の人間も、グループ会社の人間も、一人も取り残すことなく、大きなサークルとして変化に対応して乗り切っていこうという意気込みだ。