人生に奥行きが持てる

【海老原】ありがとうございます。こうした話をすると、「でも、高齢だと障害発生確率が高まる」という不安を耳にしますね。確かにそれは事実でしょうが、40歳だとダウン症児の生まれる確率がまるで2人に1人のように勘違いされています。現実は、40歳出産で89人に1人、45歳だと24人に1人です。先ほどの妊孕力の件も、この障害発生の話も、いたずらに不安をあおるのではなく、こうした現実のデータをしっかり伝えることも重要でしょう。もちろんそれで終えず、対策や心の準備なども用意し、全部を知った上で、最善の選択肢を取れるようにしていけば、「30歳過ぎたら諦めた」「三十路女性は賞味期限切れだ」と考える人は少なくなっていくのではないでしょうか。

たとえば、胎児の障害については、出生前検査でわかります。現在は簡単な血液検査が妊娠6週間から可能です。かつてのように妊娠15週まで待って、肉体的負担の大きい羊水検査をしなければならないのとは異なります。もちろん、それで陽性が出る人もいるでしょう。その場合の対応や心の準備なども、示唆することが重要でしょう。

どうしても障害を受け入れられない方には、着床前診断という方法もあります。これは体外受精した複数の卵子に遺伝子検査を行うもので、正常な卵子のみを子宮に戻すことが可能となります。

「30歳までに産め」と強調するのではなく、こうした形で、女性の出産適齢期を伸ばし、人生に「奥行き」を広げてもらうことが必要だと考えています。

【図表3】40歳からでも十分に間に合う時代!

今の40歳は昔の30歳

【権丈】そういう話も、先ほど話したように、医療制度の話に関連するように思えます。プライマリ・ケア医が不在の日本は、ちょっと残念ですね。

先ほど、1920年代に40代の女性の出生率が高かったという話がありましたよね。あの頃は、まだ寿命が短かったんですよ。

でも今は、当時と比べて、日本人ははるかに若返っています。2017年1月に、日本老年学会・老年医学会が共同で、日本人が5歳から10歳は若返ったという科学的データに基づいて、高齢者は75歳からにするべきだという高齢者再定義の提言を行っていました。今の40歳は、その先の余命の長さを考えても、昔の30歳くらいの気持ちでいいのではないでしょうか。

【図表4】日本人自体が大幅に若返っているという事実