わがままを伝えやすいリーダー像とは

さらに大事なのが、社員の声を聞く姿勢です。「言いたいことがあるなら言いにこい」だと、社員はなかなか本音を話しません。門戸を開くだけでなく、こちらから聞きに行く機会をつくるべき。私は事業方針説明会ですべての事業場に行きますが、説明会の後には必ずディスカッションの時間をつくり、さらに希望者を募って食事に行くこともあります。そうやって自分から入っていくと、みんな言いたいことを言い始めます。

社員の話の中には、それはないなというものもあります。しかし、そこで即却下すると次から本音が言えなくなってしまう。「99%無理」と正直に伝えつつ、「ほかの経営陣にも聞いてみるから持ち帰らせて」と保留して、受け止める姿勢を示すことが大切です。

商品やマーケティングなどの企画提案に関しては、年次を理由に却下することもしません。経営陣は成功体験が豊富ですが、それは過去のもの。そもそも若い女性がターゲットの商品のデザインや色について、中高年が評価すること自体がズレています。事業性については経営陣がしっかり精査しますが、それ以外はむしろ私たちの想像を超えてくるようなものがいい。

いったんゴーサインを出したら、会社として全面的にバックアップします。「自分で提案したのだから後は知らない」では社員がチャレンジしなくなります。クレイジーな企画はリスクがありますが、幸い今は通販チャネルなどを使って小ロットで試しながら展開ができます。

こうした姿勢を見せることで、社員の意識は確実に変わってきました。従業員調査でクレイジー度を調べていますが、実際にクレイジーな行動をしている社員が、目標値の2割を突破。クレイジーな社員が一定数を超えてきたので、次は個のクレイジーからチームのクレイジーへと広げていくつもりです。

ポスターにして社内に掲示されている企業ビジョン。組織体制も「大きく変わっていきたい」という岩倉社長の強いメッセージがこめられている。
ポスターにして社内に掲示されている企業ビジョン。組織体制も「大きく変わっていきたい」という岩倉社長の強いメッセージがこめられている。

注意したいのは、いい意味のわがままと単なる自分勝手を区別することでしょう。後者を許すと組織が成り立たないので、リーダーがしっかり見極めて待ったをかけなくてはいけません。

私の判断軸は、その人だけにメリットがある話なのか、それともまわりをも幸せにする話なのかどうか。たとえば「給料を3倍に上げてほしい」という社員がいたとします。その理由を尋ねて、「車を買い替えたいから」というのは悪い意味のわがまま。「同世代は生活が苦しくてみんな困っている。もっと仕事に集中して頑張りたいから給料を上げてほしい」なら、きちんと耳を傾ける価値があると思います。

部下のわがままをホイホイ受け入れていたら上司の威厳がなくなってマネジメントしにくくなると思う人がいるかもしれませんが、心配は無用です。

リーダーとそれ以外の人の一番の違いは、決断すること。社員も日々の仕事で決断していますが、リーダーの決断とは重みが違います。リーダーが普段から「いざというときには自分が全責任を負う」という思いで仕事をしていれば、その覚悟は社員に伝わり、ある種の威厳を生み出します。

逆に言うと、リーダーの責任をまっとうしていない人はナメられて終わりです。リーダーとしての自覚をもって決断を下し、何でも気軽に言える関係性と威厳を両立させてください。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。

(構成=村上 敬)
【関連記事】
ツタヤさんのほうがお店はキレイです…ゲオ社長の「うちは二番手でいい」「内装は安くていい」という経営哲学
炎上中のプロ雀士に必ずLINEを送る…廃刊寸前だった麻雀雑誌に年間4000万円をもたらした編集長のアイデア
「仕事のできないハズレ新人」が異動した途端に大活躍…若手の働きを激変させた現上司と元上司の決定的な違い
「入社直後は優秀だったのに…」期待のホープをパッとしない"指示待ち社員"にしてしまう"優秀な上司"の罪
なぜ孫正義社長は「すぐ電話をかけてくる」のか…仕事がデキる人がメールより電話を多用する本当の理由