※本稿は、柯隆『中国不動産バブル』(文春新書)の一部を再編集したものです。
不動産バブルが崩壊したかどうかを判断する4つの指標
なぜ一定数の人には、中国の不動産バブルが崩壊していないように見えるのだろうか。
不動産バブルが崩壊したかどうかを判断する指標には、不動産価格の下落、デベロッパーの経営状況、個人による住宅ローンの延滞、銀行の不良債権問題などがある。
一般的に不動産バブルが崩壊すると、不動産価格はある程度下落するが、大暴落はしにくい。これは不動産価格の下方修正硬直性によるものといわれている。デベロッパーの経営悪化ないし大規模倒産が起き、景気が急減速するのを受けて、個人による住宅ローンが延滞され、銀行のバランスシートに巨額の不良債権が生まれ、金融システム不安が現実問題として浮上してくる。これが、不動産バブル崩壊が引き起こす債務連鎖である。
この一連の動きのなかでもっとも重要なのは情報の伝達である。すなわち、デベロッパーの経営難が囁かれると、銀行の経営難も容易に想像される。金融不安が現実味を帯びてくると、マクロ経済はデフレに突入する可能性が高くなる。これはまさに30余年前に日本が経験したバブル崩壊のストーリーだった。
住宅ローンを返せなくなっても家を売却することができない
中国の現状を見ると、デベロッパーが経営難に陥っているのは明らかだが、大規模な倒産には至っていない。だから、一部の人には不動産バブルが崩壊していないように見えるのだろう。気をつけるべきなのは、デベロッパーの多くが政府による救済を待っている最中だということだ。政府が救済に乗り出せば、倒産を免れる。逆に政府が救済しなければ、不動産デベロッパーと下請け企業などは連鎖倒産してしまい、中国経済は一気にクラッシュしてしまう。今はその瀬戸際に差し掛かっているところだ。
2024年3月9日には、不動産政策を担う倪虹・住宅都市農村建設相が全人代に合わせて記者会見。債務超過が深刻な不動産企業について、「相応の対価を支払わせる」「破産すべきは破産」などと発言し、衝撃が広がった。
一部の個人はすでに住宅ローンを予定通りに返済できなくなっている。中国にいる友人に確認してもらったところ、個人は家を売りに出したくても、地方政府が決めた価格より安い価格で売ることが認められていない。ガイドラインに沿った価格を設定して売りに出しても、ほとんど売れないといわれている。多くの個人にとって住宅ローンの返済が難しくなっても、家を売って損切りすることすらできない状況になっているのだ。若者の失業率の急上昇も、個人の住宅ローンの延滞の要因で、銀行に差し押さえされ競売に出されている物件が急増している。