「一過性損失」がキーワードになっていた決算発表

まず決算発表の冒頭で経営陣は「当期利益は、3864億円となりました」と伝えた後で、

「課題を持つ複数の事業で、一過性損失を計上したことから、通期見通しを下回る着地となりました。一過性を除く業績は、5010億円となり、見込み通りの着地となっております」

という説明をしています。

この「一過性損失」は決算発表のプレゼンテーションのキーワードになっていて、いたるところでこの一過性の損失がなければどういう結果になるのかが解説されていました。

これは経営者の態度としてはあまり誠実ではない説明です。商社のビジネスは投資ビジネスですから一定の確率で損失が出るのは当然です。今期はマダガスカルでのニッケル事業で▲890億円の減損を計上したことが大きく、他にも海外の通信事業、アグリ事業、モビリティ事業で減損を行ったのです。

損益計算書の上では今期だけに発生する損失なので「一過性」として説明したかったのでしょうが、投資を主とするビジネスでは一過性の損失が出るのは当たり前で、事業の本質です。逆に来期は一過性の要因がなくなるので純利益は元の水準の5300億円に戻ると説明していますが、それも来期は投資で損失が出なければという注意書きのうえでの説明だと思ったほうがいいでしょう。

財務グラフ
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住友商事はROEが一桁台に転落している

今回の住友商事の決算発表は、これは経営者の癖なのでしょうか、重要なことをあまり説明しません。決算発表資料の中でも投資家から見れば重要なセグメント別の利益や、投資体力を見るためのキャッシュフロー情報は「時間の関係で省略します」で報告が終わってしまいました。報告はあっさりと一過性損益がなくなった次年度の当期利益予想5300億円の説明に移ってしまいます。

では住友商事の決算のどこがダメなのでしょう。総合商社が投資事業を主戦場としている以上、ROE、つまり株主資本に対する利益率が問われます。みなさんが株式に投資をする際に、たとえば人気のアメリカ株インデックスであるS&P500に投資する場合には10%程度の利益率を求めていると思います。

個別企業の場合は当然、市場全体の投資利益率よりも高い利益率が必要です。総合商社事業の場合、三井物産、伊藤忠、丸紅はいずれも15%台のROEをたたき出しています。今期、資源事業の悪化で▲18%の利益減少を記録した三菱商事は11%台のROEに転落しましたが、それでも投資家が期待する2桁のROEは何とかキープしました。

それに対して住友商事は減益幅が▲32%と大きかったことからROEが9.4%と一桁台に転落しました。そして投資家の目線で一部譲歩して一過性要因を除いたとしてもROEは12%程度にすぎない。ここが実は投資事業を行う企業として厳しい結果でした。このあたりの説明をスルーした前半の決算説明会のスピーチだけを見ていると「住友商事はダメなのか?」と思えてしまいます。