沖 僕はきまぐれに来て挙動不審だから、猫にとっては怖い存在だったんだと気がついて。だったら、僕がいつも同じ時間帯に来て、何かしてるみたいだけど脅威ではないのね、と猫が思うくらいその場に溶け込めれば、いい写真が撮れるんじゃないかと思ったんです。
――かといって、仲良くなるわけでもない?
沖 僕に会って喜んでゴローンとかってなっちゃうと、僕と猫の関係性で表れる感情しか見えなくなるじゃないですか。その感情を撮りたいなら問題ないのですが、僕は「僕の知らないことをしている自然な猫」をとらえたいから、不要なんです。猫にとって空気のような存在になることは、自分の中では撮影のキーかもしれません。
「どうされましたか?」「猫撮ってました」「えっ」
――先ほど挙動不審というお話がありましたが、早朝からウロウロしていると、人間側にも不審者として見られることはないですか。
沖 幸い、今のところは大丈夫そうです。客観的に考えると、身長180センチのヒゲ面のおっさんが、平日の真っ昼間に道の真ん中でベターッとうつぶせになってカメラを構えているわけですが、もし不思議がられても、「今、猫撮ってて。猫、かわいいですよね」と言うとわかってもらえることが多いです。
――猫だけでなく、周りの人間にも警戒感を抱かせないことが重要なんですね。
沖 もちろんですよ。だって怖いじゃないですか。だから、声をかけられたときにもちゃんと話しますね。
むしろ心配されるようなこともありました。一度、夜中に猫を見つけて四つん這いになって撮影してたら、お巡りさんが自転車で来たことがあって。撮影していた地域が酔っ払った人が寝てても不思議じゃない場所だったので、警官としては「大丈夫?」っていう感じで声をかけてきたんです。
――「具合悪いですか?」という感じで。
沖 そうそう。でも、「どうされましたか?」に「猫撮ってました」と素直に返事をしたら、逆に「えっ? 想定と違う答えが来たぞ」となっちゃって。しかもそんなときに限って、やり取りの間に猫はどこかにいなくなっちゃうし。