真面目な気持ちを捨てて、「概算」をつかむ

先ほどの消費税8%の例に戻ってみましょう。

「ところで、こっちの1ケース1200円の商品を35ケース頼んだとしたら、いくらになる?」

取引先からそう聞かれたとき、真面目なあなたはきっと「8%ということは、1200×35×1.08で……」と、頭の中で下1ケタまできっちり計算しようとするのではないでしょうか。

しかし、取引先との商談や会議においては、そこまで正確な数字が求められていない場合もあります。

重要なのは、求められている数字のレベルを見極めること。ときには、相手が知りたかったのは正確な金額ではなく、ざっくりとした金額の規模感だったということもあるのです。

ちなみに、答えは45360円ですが、この計算を瞬時に頭の中で行うのは計算力がある人でもなかなか大変です。

だから、計算力がある人たちは、「ざっくり45000円ぐらいですね」というように「概算」で答えを出して、金額のイメージを膨らませます。360円のことは置いておきます。拍子抜けしてしまうかもしれませんが、これこそが瞬時に計算を行うコツなのです。

スラスラと具体的な数字が言えれば、それだけで相手に「数字に強い人(=正確に物事を捉えている人)」だと思ってもらうことができます。「数字が使える」というのは、信頼を得たい人との会話において強力な武器になるということです。

あなたも一度、彼らにならって「正確に計算しなければ」という考え方を置いてみましょう。

本稿を通じて「ざっくり○○円ぐらいですね」と言えるようになれば、計算力の高い人たちに一歩近づけるはず。

また、概算とは決してデタラメな数字を伝えるものではありません。正しい計算方法を覚えれば、案外、実際の数値との差が小さいことがわかるはずです。

「36×12」と聞かれて「432だよ」と答える意味

ちまたでは「2ケタ暗算」が流行っているようです。2ケタ同士の掛け算がすぐにできる、というものです。

では、「36×12」は? と聞かれて、「432だよ」と瞬時に答えることができたら、何かの役に立つのでしょうか。

あなたが学生なら、テストを解く際のスピードが確実に上がるでしょうから、役に立つと言っていいと思います。

でも、実生活では?

おそらく、こうした計算が必要となるのは、次のような場面でしょう。

「先月はトイレットペーパーが36ロール必要だったんだよね。せっかくなら1年分まとめ買いしようと思うんだけど」
「ああ、じゃあ36×12でだいたい430個くらいかな。これなら倉庫に置いておけるね」

買ってきたトイレットペーパーを買い物袋から取り出す人
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

ここで、「いや、正確には432個だ、2個違う!」と目くじらを立てることにはほとんど意味はありません。「ざっくり」の数さえわかれば、意思決定(この場合は「1年分まとめ買いすべきかどうか」)の判断には十分だからです。

つまり、実生活において必要な計算のほとんどは「ざっくり」でいい。ここが、本書でご紹介する計算力の大前提となります。