老後のためにはどんな準備をするべきなのか。司法書士の太田垣章子さんは「60代のうちに『終の棲家』を見つけてほしい。50代のある夫婦は月10万円の3LDKに2人で住み続け、家賃滞納を繰り返していた。このままでは老後に住む家がない『漂流老人』になってしまう」という――。
公園を歩くシニア夫婦
写真=iStock.com/AscentXmedia
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月10万円の3LDKで起きた家賃トラブル

困り果てた家主から、家賃滞納のトラブルで直接ご相談を受けました。最近は家賃保証会社経由でのお話が多いのですが、今回は保証会社がついていない案件。

家主からすれば、時間が経てば経つほど、回収しにくい滞納賃料が毎月加算されていってしまいます。でもこの間も物件に関する借り入れの返済もあり、気が気じゃないといった印象を受けました。

「まったく賃借人とも連絡がつかないんですよ! もうどうしていいやら……」

言葉の端々から、家主の怒りと焦りが見えます。

賃借人は58歳の男性、内装リフォーム業の個人事業主です。3LDKのマンションに妻と子2人の家族4人で入居していました。東京ではなく近郊の県だったため、60㎡を超えている部屋なのに、家賃は駐車場代を含めても10万円。割安とはいえ、滞納額は50万円(5カ月分)を超えています。

日本では、賃借人は借地借家法で手厚く守られるため、法的手続きに入るのにも滞納賃料が最低家賃3カ月分必要となり、その後の裁判所の判断もかなり賃借人に偏ったものとなります。しかもやっと退去してもらえたとしても、追い出された滞納者はなかなか滞納分を自分から支払ってはきません。

督促したとしても、スルーされてしまうのがオチです。差し押さえるべき給与等があればいいのですが、そもそもそのような方は滞納なんてしません。結局家主側が、泣きを見るしかなくなるのです。

50代夫婦は貯金を切り崩し、追い詰められていく…

私の出会った滞納者たちは、一部の悪い人たちを除き、視野が狭くなって長期的なスパンで物事を考えられない状態になっていることが多いです。

日々の支払いや金銭的困窮に追い詰められ、解決策を合理的に判断できなくなっている人たちばかりです。お金というものは、本当に人を追い詰めるのだな……いつもそう感じていました。

このままいくとあと数カ月で貯金が底をつく、だからその前に固定費を下げる、払える安い部屋に転居する、そう考えて自発的に行動できる人は滞納なんてしません。頭では分かっていても動けず、日々のお金に追いかけられ、目先しか見えなくなってしまいます。