7人の営業マンが海の向こうで起こした奇跡
シンガポールで、日本人移住者を顧客にしている大和証券の一部署が急成長している。それが大和証券シンガポールの富裕層向けサービスを行っているWCS(ウェルス・アンド・コーポレート・クライアント・ソリューションズ)だ。
WCSはかつて鳴かず飛ばずで一時は閉鎖寸前まで行った。それが10年間で預かり資産1兆円を達成した。快挙であり奇跡だ。
快挙の原動力は「海を渡った7人の侍」と呼ばれる営業マンたちだった。
コロナ禍前の2019年にシンガポールのWCSにやってきたのが酒井祐輝だ。彼のキャリアは他のメンバーとは違っている。彼だけは国内支店の営業を経験していない。入社以来、上場法人を相手に金融ビジネスをやってきた。それは彼が入社したのは大和証券SMBC、法人ビジネスの担当として職業人生を始めたからだ。
だが、彼は自薦してシンガポールに来た。「個人客を相手にした仕事をやりたかった」からだった。
富裕層相手に活きるホールセール営業の強み
彼は自らのキャリアについてこう言っている。
「証券会社ではホールセールとリテールが2大分野です。ホールセールは法人業務で、リテールとは個人営業。私がやってきたホールセールは、お客さまが上場会社でM&Aをしたり、IPO(Initial Public Offeringの略。最初の株式公開)をしたりするのをサポートする業務です。
ホールセールにはグローバルマーケット部門といって債券、株のスペシャリストになる道もあります。どちらも支店での個人営業で実績を上げた社員がホールセールに異動することが多いです。私は大和証券SMBCという会社に入社したため、最初からホールセールでした。ただ、実際の現場はリテールと一緒で泥臭いです」
シンガポールに赴任したのは2019年。酒井もまた営業の出発はゼロからだった。日本人移住者へテレコールをしたり、日本人の集まりに顔を出したりした。すると、すでにシンガポールに来ている法人が酒井のキャリアに興味を持ち、接触してきたのである。
酒井は言う。
「こちらの県人会に顔を出して挨拶することはやりました。それでお客さまになってくれた方もいます。ただ、僕の場合はこちらに進出している法人客から相談がありました。元々ホールセールをやっていましたから、どうしてもそうなってしまうのでしょう。また、こういうお客さまもいます。個人で一度、日本で成功して会社を売却し、もう一度、シンガポールで起業した方です。僕はそういう方には重宝されたかもしれません」