法人にはない個人営業の良さがある

遠藤亮がWCSに来たのは2021年。コロナ禍の最中だった。遠藤は酒井と同じで国内営業からの異動ではない。国内営業の経験はあるが、3年間だけだ。

コロナ禍に赴任した遠藤さん。日本時代は法人営業だったが、個人顧客であれば長期で運用ができると、シンガポール行きを決めた
撮影=永見亜弓
コロナ禍に赴任した遠藤さん。日本時代は法人営業だったが、個人顧客であれば長期で運用ができると、シンガポール行きを決めた

遠藤がシンガポールに来たのは債券についての知識があるからだ。

「大和証券全体の債券担当は300人くらいいて、僕がやっていた法人相手のセールスには70人くらいがいました。取引先には信用されていました。債券に強い会社、ボンドハウスだと思われていました。

僕が個人富裕層のお客さまを相手にしたいと思ったのは法人だとある程度、運用に制限があるからです。法人がたとえば国内銀行だとしましょう。銀行は預金が円だから基本的に円で運用します。しかも格付けがシングルA以上と決まっている。

銀行にもよりますが、格付けがダブルBに落ちたら、例外なくロスカットしなくてはいけない……。債券の年限も10年までにしてくださいとか。そういう規則があるから、その範囲内でしか運用できません。僕はそういった制約から離れた取引を体験してみたかった。

法人だと自分が担当の間に結果が出ないから困る、短い年限の債券にしてくれと言われることがあります。個人であれば長期で運用ができます。また、魅力的な商品の組み合わせを考えることができます」

最後にやってきた男

「自分自身で気をつけているところは金融商品を説明すること。『遠藤の話はわかりにくい。難しい』と言われます。そこで、できるだけ簡単に説明するように頑張っているのですけれど、かといってミスリードはできません。法人相手でしたら、先方もプロだから専門用語で話せばいい。

ところが個人の方を相手にするとそうはいかない。お客さまを見つけるのも難しいけれど、お客さまに対して債券の説明をすることも簡単ではないと痛感しています」

WCSの営業員のなかで2022年にやってきたのが部長の有田謙吾だ。国内支店の営業は水戸支店で2年と6カ月やっただけだ。あとはウェルスマネジメント部、営業企画部というリテール営業をサポートする部署にいた。

有田はWCSではひとりの営業員としてテレコールをやり、県人会、大学の同窓会に顔を出している。着任して間もない頃、古巣の水戸支店が顧客を紹介してくれた。水戸支店に勤務したのは20年以上も前だったのに、支店の後輩たちは先輩のために一肌脱いだのである。