住居の下見から、子供の学校見学にもついていく

「たとえば、『酒井さん、資金調達したいのだけれど』と頼まれたら、『わかりました。シンガポールにあるベンチャーキャピタルの知人に話をつなげます』と言える。また、『シンガポールで上場したいんだ』と言われたら、わかりましたと専門家を呼ぶ。

僕自身はWCSですから、その会社の上場を直接担当することはできません。他にもM&Aで手に入れた会社を売りたくなったら、『こういうPEファンドがあります。知り合いなので連れてきますよ』とも言える。

そして、お客さまのアドバイザーになった場合、金融会社が行うプレゼンの席に出て判断できるわけです。

『いや、あの提案はちょっと難しいです』とアドバイスができる。運用の方法もわかりますし。ホールセールをやってきたからこその体験と知識で仕事しています」

そして酒井には日本のホールセールの仲間からの紹介がある。

「酒井、こんな人がいる。僕らが仲介して会社を売却した人だけどシンガポールかマレーシアに住むらしい。そっちへ行ったら訪ねてみてくれと言ってある」

そうやって、紹介された人がシンガポールに下見にやってきた時に一緒に不動産を見に行ったり、子どもの学校へ同行する。

マーライオンのあるシンガポールの景色
撮影=永見亜弓

「相手の懐に入れるか入れないか」

酒井はかみしめるように言う。

「結局、紹介が紹介を生むわけです。お客さまは僕らの実力をちゃんと見ています。そして、信頼されたら富裕層コミュニティのなかへ入っていける。考えてみれば人間関係を作ることはホールセールでやっていたことと同じでした。PEファンド、上場会社のコミュニティへ入るのも同じ。相手の懐に入れるか入れないかだけだと思います。

今はシンガポール以外のアジアの国に住むお客さまが増えています。他の国に暮らしていて、口座をシンガポールのWCSに開いて運用する方がいるんです。シンガポールは住居費や物価が高いですし、移住するためのビザ取得が難しくなっています。以前よりも大きな額のお金を持ってこないといけない。また、資産管理会社を作ったとしても、そこが何も事業をしていなかったら、ビザが下りなくなります。

そこで、今はタイへ移住する方が増えています。タイの移住ビザはシンガポールに比べると安い。マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドも同じようなビザの制度を作っています」