なぜここまで「尽くして尽くして尽くす」のか

WCSの顧客は前述のように日本非居住者で、シンガポール始めマレーシアなど、主に東南アジア在住の日本人富裕層だ。

比較的若くてバイタリティがあり、株式や不動産よりもキャッシュの資金力が豊富な人たちが多い。アジア展開や世界展開を視野に入れた現役経営者、M&Aで自社をバイアウトした元経営者も少なくない。

そして、大出もまた昭和的な営業スタイルである。

「運用のサポートは当然で、移住のためのサポート、法人設立、住居探し、お子さまの学校探し、旅情報、グルメ情報、手土産情報、各種リサーチ、ドライブのお付き合いからゴルフのお付き合いまで、とにかくお客さまに尽くします。尽くして尽くして尽くします」

彼は「シンガポールに移住される理由は主に6つあります」と言った。

「ビジネスの海外展開、お子さまのグローバル教育、税制のメリット、災害や地政学リスク等の回避、ゴルフ環境、そして投資環境です。

投資の環境は、税制と絡んで富裕層にとって妙味があります。特に投資商品の幅と、投資手法の点で、日本とは異なります。

シンガポールの地理的要因も大きいでしょう。日本から7時間ほどで到着し、成長するアセアンの玄関口にある。時差1時間ですから日本とのビジネスもリモートで成り立ちます。日本食の調達や日系医療機関も充実しています。英語で普通にビジネスができます」

シンガポールの水辺の風景
撮影=永見亜弓

富裕層への営業は、人間臭くて泥臭い

「さらに、シンガポールの魅力のひとつがゴルフです。ゴルフをされる方はとても多いです。ゴルフは私の営業においては必修科目と言えます。一年中ゴルフができ、マレーシアやタイにも足を運んでゴルフを楽しめる環境に惹かれて移住される方、移住されてからゴルフを始められる方などさまざまですが、生涯スポーツですし、健康になります。なにより大人のコミュニケーションツールとして大変有用なのかと思われます。

野地秩嘉『海を渡った7人の侍 大和証券シンガポールの奇跡』(プレジデント社)
野地秩嘉『海を渡った7人の侍 大和証券シンガポールの奇跡』(プレジデント社)

教育移住も想像以上に多いです。シンガポール現地の公立校、日本人学校、インターナショナル校の選択肢がありますが、選ばれるのは主にインターナショナル校です。

シンガポールには60校以上のインターナショナル校の選択肢があります。

インターナショナル校で学ぶメリットは、英語に加え中国語を学べる語学環境、ICT教育の先進性、そして富裕層ネットワークを構築できる環境でしょうか」

WCSが手掛けるサービスは投資や運用といった金融面に限らず、日常のお手伝いまでが守備範囲になる。彼らがやっていることはプライベートバンキングという言葉のチャーミングな響きからは想像できない人間臭さと泥臭さに満ちている。

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