年金暮らしも「選択と集中」で
年金暮らしになっても、毎日の食べるものや光熱費、健康保険料や介護保険料に「シルバー割引」はないので、これらを差し引くと、たいていの人は「老後の人生をエンジョイする資金」はそう潤沢ではないでしょう。
では、資金が潤沢でない場合はどうしたらいいのでしょうか。
企業経営では、よく「選択と集中」という言葉を使うそうです。
あれもこれもと手を広げるのではなく、特定の領域に目標を絞り込み、そこに資金や人材などを集中的に投入する経営戦略だとか。
この「選択と集中」という考え方は、私たちの「年金生活」にも採り入れるといいのではないでしょうか。
以前、中学時代の先輩と久しぶりに一杯やったとき、彼も同じようなことを話していました。
先輩は姉が一人いる二人きょうだい。お姉さんは伴侶を亡くし、先輩は少し前に熟年離婚をし、どちらも「ひとり老後」を送っています。二人とも平均的な年金暮らしを送っているそうですが、それでいて「暮らしぶりがそれぞれまったく違うんだよ」と笑います。
お姉さんは「食道楽」。年中、あちこちへ食べ歩きに行ったり、全国からおいしいものを取り寄せては、訪ねてくる子供や孫と一緒に食べているのだそうです。
ふだんの暮らしは『粗衣粗食』主義
一方、ご本人は「芝居やオペラ公演」などには惜しげもなくお金を使っているといいます。先輩の話はそこで終わりではありませんでした。
「その代わり二人とも、ふだんの暮らしは『粗衣粗食』主義なんだよね。食べるもの、着るものは贅沢しない……」
粗衣粗食を言葉どおりに受け止めると、耐乏生活を送っているような印象になるかもしれません。しかし、老後に食べるものは簡素なくらいのほうがむしろ健康的ですし、改まった外出の機会が減るので、着るものにかけるお金も自然に少なくなってきます。
「粗衣粗食」は、老後生活の自然なあり方といえるかもしれません。
先輩きょうだいのこの例も「選択と集中」といえるでしょう。
老後は一般的に収入は減るものの、自分の好きなことにある程度のお金を使い、それで気持ちが満たされれば、ふだんは「粗衣粗食」でも精神的に貧しくなることはないでしょう。
「選択と集中」――。現役時代に培ったノウハウやものの考え方が、老後の暮らしに役立つこともあるようです。