不安が頭から離れず、いつもモヤモヤ…

これらのことから考えても、高齢者のうつ、つまり「老人性うつ」の発症には、加齢によるセロトニンの減少が大きく関わっているというのが、私も含めた精神科医の考えです。

そして実際、セロトニン濃度を上げる抗うつ剤は、若い人にはあまり効かないことが多いのですが、40歳以上では比較的よく効きます。これは精神科医としての私の実感でもありますが、これを示すデータは日本のみならず、海外にもたくさん存在します。

実はセロトニンが不足すると、うつを発症しないまでもさまざまな良くない症状が現れます。

まず一つには、モヤモヤとした不安が強くなることです。

例えば、またコロナが猛威を振るったらどうしようとか、南海トラフ地震が起きたらどうしようとか、あるいは、振り込み詐欺や闇バイトに襲われたらどうしようといった不安がいつも頭から離れなくなったりする、といったことが起こり得るのです。

「幸せな高齢者」になるかどうかの分かれ道

また、痛み刺激に敏感になるというものもあります。

そうでなくても女性は骨粗鬆症になっている人が多く、背中や腰などに痛みを感じやすいのに、セロトニンが足りていないと、その痛みをより強く感じてしまうのです。

実際、腰痛にずっと苦しめられて、鎮痛剤を飲んでもまったく効き目が感じられなかった方でも、脳内のセロトニン濃度を上げる抗うつ剤を飲むと痛みから解放されるというケースは結構あります。

他にも、便秘や下痢、頭痛、腰痛、動悸といった体の不調が現れることもあります。

つまり、十分なセロトニンが維持できるかどうか、いかに不足させないか、というのは、うつの発症うんぬん以前に、幸せな高齢者とそうでない高齢者の分かれ目になるくらい重要なのです。

「老人性うつ」を予防するためにも、また、日々の体調を整えるためにも、セロトニンを増やすような暮らしを意識することはとても大事です。「幸せホルモン」という呼び名の通り、脳内のセロトニンが多くなると、何気ないことにも幸せを感じられるようになりますから、楽しくて充実した「第2の人生」を送るうえで、これほどいいことはありません。