女性のほうが高い「うつ」リスク
ただその一方で、女性は男性よりも「うつ」を発症しやすいという事実もあります。それがなぜなのかはよくわかっていないのですが、これは日本に限らず、アメリカでもよく知られた現象なのです。
しかも、男女間の患者数の差は、60歳以降になるとより顕著になっていくこともわかっています。
2020年の厚生労働省による「患者調査」では、「うつ病・躁うつ病」の患者数を同じ世代の男性と比較すると、60代女性は約1.5倍、70代女性で約2.5倍、80代女性は約2.7倍という結果が出ているのです。
自殺する人の数は逆に男性のほうが多いのですが、自殺にまで至らないから女性のうつは深刻ではないということでは決してありません。
高齢になってからうつを発症すると、食欲減退による栄養不足も相まって心身共にめっきり老け込んでしまうので、残りの人生を真っ暗闇の中で過ごすことにもなりかねません。また、うつに至る過程で相当なストレスを抱えているはずなので、それで免疫力が下がり下手をするとがんを呼び込んでしまうリスクもあります。
「幸せホルモン」が減り、不調が増えていく
つまり、高齢者にとってうつというのは決して軽視することができない、ある意味、認知症よりも怖い疾患だと私は思っています。
だから、うつを遠ざけるような生活をすることは、60歳以降の女性にとっての大きなテーマなのだと言ってよいでしょう。
脳内の神経伝達物質の「セロトニン」は喜びや快楽に関わる「ドーパミン」や、意欲や気力、積極性に関わる「ノルアドレナリン」などの情報をコントロールして、精神を安定させています。またその働きから「幸せホルモン」とも呼ばれています。
このセロトニンの分泌は10代をピークに年齢とともに減っていくのですが、60代になるとさらに著しく減る傾向があります。そして、それに呼応するかのように食欲の異常や睡眠障害といった不調を訴え始める人が多くなります。また、うつの有病率を見ても普通の世代が全体の3%であるのに対して、65歳以上では5%にまで上昇するのです。