ネガティブな人間が映像を編集する苦悩
がんばって撮影した映像を、さあ編集するぞ! とまずはコンテ通りに簡易に繋いだものを見たとき、僕は「あれ、思ったよりぜんぜん良くない……」と毎回落ち込みます。なぜか必ず毎回です。現場で良い画が撮れたと思っていた場合でも関係ありません。
おそらくネガティブなチェック目線が災いして、カットごとに今からかけるべき修正を何箇所も発見しているうちに、その膨大な量に脳が悲鳴をあげているのでしょう。
撮影現場でほぼ合成や加工が必要ないくらいの完成形を目指して撮影し、あとはその撮ったものを並べるだけ……というスタイルの監督ならそうはならないでしょう。それはさながら、最上級の海鮮を、切れ味の良い包丁でさばいて盛りつけた刺身のよう。素晴らしい匠の技であり、憧れます。
しかしながら、僕のつくるものは素材を切ったり焼いたりするどころか、怪しいソースまでかける始末。とにかく編集であれやこれやと味をつけてしまうスタイルなのです。現場のスタッフには申し訳ないとすら思うレベルで味をつけていきます。
CM撮影後に重要なシーンを急ごしらえ
これは僕のネガティブな人間性が影響しており、とにかくあとから小ネタを足してでも点数を上げなければ、という強迫観念に近いものです。「なにも小ネタがないカット恐怖症」なのです。アニメーションを描き足したり、テロップを入れたりして、なんとかおもしろくできないかとあれこれ探り続けます。
「足す」どころか、なにもないところからつくりだすということも平気でやります。
「石田三成CM」では、撮影後に石田三成の「三献の茶」のエピソード(寺小姓だった頃の三成が、羽柴秀吉に一杯目はぬるいお茶を茶碗なみなみに、二杯目は少し熱めのお茶を半分ほど、三杯目は熱いお茶を小さい茶碗で出した、という逸話)を入れるのを忘れていたことに気づき、慌てて会社で「三献の茶」という架空のお茶のラベルをIllustratorでつくり、プリントして空のペットボトルに貼りました。
そして給湯室から小道具の湯呑みを持ってきて、会議室のテーブルの端っこでiPhoneで撮影した素材をつくってCMになんとか入れ込みました。