「膝関節症サプリは効かない」は医師の常識
私は日常診療をおこなう中で、少なくない高齢者がサプリメントをこうした「妙薬」と位置づけ、すでに使用もしくは今後使用すべきか思案していることを知っている。そして彼らの口から出てくる言葉を聞くと、そのほぼ全員が、科学的根拠ではなくテレビや新聞の広告を購入の判断材料としていることを知るのである。
例えば変形性膝関節症に悩む高齢者は多いが、整形外科で関節内注射やリハビリ、体操、鎮痛剤といった「正攻法の治療」を受けても、なかなか症状が改善しないと悩む人もたしかに少なくない。
そのような人が、テレビCMで「飲み始めて効果実感! 階段がスムーズに降りられるようになりました」などというエキストラによる絶賛の声を聞かされれば、藁にもすがる気持ちで、けっして安くはない「膝サプリ」の購入を決めてしまっても不思議はなかろう。
しかし残念ながら、これらの高価なサプリメントが「膝関節に及ぼす影響はない」ということは、すでに医学論文では結論が出ている。これらのサプリメントに含まれているグルコサミンやコンドロイチンを口から多少摂取したところで、消化管にて分解されてしまい、関節腔内に届いて効果を発揮することはない、というのが医師の間ではもはや常識なのである。
「機能性表示食品」の安全性は担保されていない
つまりはっきり申し上げれば、これらの商品は、どんな有名な大手企業が販売しているものであっても、すべて科学的にはインチキなものなのである。
ただ「プラセボ効果」はあるかもしれない。「なんとなく使用してから膝の具合がよくなった」との実感があるなら、その効果であろう。しかしそれだけのために高い金額を払ってサプリメントを購入する意味はあるだろうか。
問題はそれだけではない。ただ効果が広告どおりでなかっただけならば「お金をムダにした」と思えばいいのだが、無効ばかりか健康被害のリスクまであるとなったら一気に話は別次元となる。
今回の紅麹サプリ問題が奇しくも露呈させたように、サプリメントによる健康被害については、もっと恐れられてしかるべきなのだ。拙著では、私がじっさいに患者さんで経験したサプリメントによるものと推定された肝機能障害の具体例を掲げているが、おそらく氷山の一角だろう。
そもそも「機能性表示食品」として出回っている多くのサプリメントは、効果はもちろんのことその安全性は誰にも担保されていないものだ。見た目は錠剤やカプセルだから薬のように見えてしまうし、飲み方も「1日3粒」などと、あたかも薬の飲み方のように指示されているから勘違いしてしまいがちだが、当然ながら薬ではない。「なんとなく体に良さそう」とのイメージだけが根拠のシロモノなのだ。