治療につなげることの難しさの背景

ギャンブル依存症の人を治療につなげることは非常に難しいといわれている。自己責任や意志の弱さの問題にされてしまうことも理由のひとつだが、他にも、金銭問題が発覚するまでに時間がかかったり、周囲の人たちが借金を肩代わりしてしまったりすることにも原因があるだろう。

金銭問題を告白したAさんは、私を含めた周囲の人たちから定期的に「ギャンブルから足を洗ったか」と確認されるようになった。実際には行っていたとしても、明るく「もう行っていない」と答えた。周囲はその言葉に安堵した。

だが、その裏でAさんは競馬場に戻り、新たな借金を作っていた。それが発覚したとき、周囲の人たちは糾弾した。様々な立場の人が様々な言葉を並べたが、一番の疑問は「なぜ」だった。約束したのになぜ、信じていたのになぜ、あんなに反省していたのになぜ……。それは、実はAさん本人も一番知りたかったことだったのではないか。

だが、脳が変形していて行動を抑制できなくなっていることなど、インターネットもまだほとんど普及しておらず、ギャンブル依存症という言葉さえ一般的ではなかった当時は知る由もなかった。

ギャンブルの話題になると表情や口調が変わる

私なら止められるかもしれないと思っていたが、泣こうが懇願しようが強い言葉で責めようが効果はなく、嘘が発覚するたびに自信を失っていった。私自身も疑心暗鬼になり、人付き合い全般が怖くなってしまった。なにより、Aさんを恐れた。

その頃のAさんは、ギャンブルの話題を避ければ昔と変わらず社交的で、彼が抱える問題を知らない人からは相変わらず信頼を寄せられていた。だが、ギャンブルの話題になると表情や口調が変わり、本能的な防御体勢に入るからなのか、嘘や攻撃的な言葉が発せられた。私はこれが何よりも怖かった。Aさんが弱さや問題をごまかすように、私もギャンブルに関する一切の話題をシャットアウトし、何事もなかったかのように生きようと考えた。

人間関係を構築するのが怖くなり、機械や映画、動物に没頭するようになっていった。おそらく周囲の人たちも同じようなことを考えていたのではないだろうか。Aさんのギャンブル依存症は、解決の糸口が見つからないまま何年も放置された。