緊張時に大きく深呼吸すると気持ちが落ち着く理由
そして、もう一つの鍵となる「呼吸」。
自律神経は内臓器官のすべて、とりわけ血管をコントロールしている重要度の高い神経ですが、人間の生命活動に欠かせない「呼吸」も、実は自律神経がコントロールしています。しかも呼吸は、自律神経=血流の良し悪しに密接に関係しているのです。
内臓や血管の働きは自分の意思ではコントロールできませんが、呼吸の速い・遅いは、自分の意思でコントロールすることができます。
呼吸が速く浅くなると、自律神経が乱れ、血流が悪くなります。その結果、腸内環境が悪化するなど、体のさまざまな部分に影響が出ます。メンタルの不調につながることもあります。
逆に、ゆっくり深い呼吸は、自律神経を整え、血流を良くし、腸内の動きを良くして、メンタルを安定させてくれます。
緊張しているときに大きく深呼吸すると気持ちが落ち着くのは、交感神経が優位で興奮していた状態だったのが、呼吸をすることで副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが安定したためです。
とはいえ、四六時中呼吸に意識を向けることは現実的ではありません。常に呼吸を意識するほどストイックになる必要はなく、朝起きたときや夜眠る前、さらに不安や恐怖に襲われそうになったときだけでも、ゆっくり深い呼吸を意識してみてください。そのちょっとしたことが、悪いサイクルから抜け出せる、大きな違いにつながります。
私たちが生きていくうえで必要不可欠な「食事」と「呼吸」。自律神経を整えるためにも、もっと意識を向けることが大切です。
恐怖心で自律神経が乱れ、免疫力が低下する
2020年春に新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃、外来診療を行っていると、「熱がある」「呼吸が苦しい」と訴える患者さんを多く見るようになりました。
けれども、患者さんの熱を測ってみると平熱の36.5℃。呼吸もパルスオキシメータで動脈血液の酸素飽和度を測ると、99%とまったくの正常値なのです。
ウイルスに感染する前の段階で、メンタルに先に異常が出てしまっていたのです。
「不安」や「恐怖」は、自律神経を乱します。特に、目に見えない未知のウイルスの流行という事態に対しては、これまで体験してきたことのない出来事でもあり、その恐怖心から多くの人が心の健康を損なってしまったと考えられます。
やみくもに恐怖心を抱いているだけでは自律神経が乱れ、免疫力が低下し、感染しやすい体となってしまうだけ。感染を恐れるあまり免疫力が低下するなど、本末転倒の状態ですが、仕方がありません。
ただでさえ、多忙な仕事、雇用への不安、老後の心配といったストレスが多い日本で、感染症の恐怖や社会情勢の悪化まで重なり、心の安定を維持することは難しいことでした。
コロナ禍から3年以上が経ち、一見今までの日常を取り戻しているかのように見えます。しかし、まだまだ「元通り」とはいかない状況であると思っています。3年は長いようで短いです。蓄積された心身の不調はそんなに簡単に解消されないのです。