父親に心配だけはかけたくない
〈商売を大きくしてしまえば、親に心配をかけることになる〉
矢野は、8人兄弟の中で、自分が一番父親から愛情を注いでもらっていることを知っていた。
いつも、顔を見れば怒鳴られてばかり。それでも、「この子がかわいい、かわいい」とも言ってくれた。
父親に心配だけはかけたくないという思いを大事にし、商売をした。
矢野は、地道に店を大事に育てた。
それが、今では1時間で1億円を売り上げるのだから、人生どう転ぶかわからない。
目標は小さくていい
必死で走ってきた矢野には、1億円を達成した日がいつなのかさえ、思い出せない。
ただ、あのときの目標が、100億、300億というものだったら、人生の節々でフライングをしていただろう。
焦るあまり、土地を買い、倉庫をつくり、商売を大きくすることばかり考えたあげく、倒産していたにちがいない。
目標は小さくていいのだ。
矢野は、2トントラックに商品を詰め込み、ベニヤ板に商品を並べて商売した。
露店の敵は、天気である。雨が降れば商売はできない。
ある日、雨が降ってきそうな雲行きの日があった。
〈今日は、雨が降りよるけ、行くのはやめだ〉
そう思っていた。しかし、予想とは逆に、天気が回復し、晴れてきた。
家から30分ほどの場所でもあったため、これからでも間に合うと商売に出かけて行った。