父親に心配だけはかけたくない

〈商売を大きくしてしまえば、親に心配をかけることになる〉

矢野は、8人兄弟の中で、自分が一番父親から愛情をそそいでもらっていることを知っていた。

いつも、顔を見れば怒鳴どなられてばかり。それでも、「この子がかわいい、かわいい」とも言ってくれた。

父親に心配だけはかけたくないという思いを大事にし、商売をした。

矢野は、地道に店を大事に育てた。

それが、今では1時間で1億円を売り上げるのだから、人生どう転ぶかわからない。

目標は小さくていい

必死で走ってきた矢野には、1億円を達成した日がいつなのかさえ、思い出せない。

ただ、あのときの目標が、100億、300億というものだったら、人生の節々でフライングをしていただろう。

あせるあまり、土地を買い、倉庫をつくり、商売を大きくすることばかり考えたあげく、倒産していたにちがいない。

目標は小さくていいのだ。

 

矢野は、2トントラックに商品を詰め込み、ベニヤ板に商品を並べて商売した。

露店の敵は、天気である。雨が降れば商売はできない。

雨の中差した傘
写真=iStock.com/Julia_Sudnitskaya
雨が降れば商売はできない(※写真はイメージです)

ある日、雨が降ってきそうな雲行きの日があった。

〈今日は、雨が降りよるけ、行くのはやめだ〉

そう思っていた。しかし、予想とは逆に、天気が回復し、晴れてきた。

家から30分ほどの場所でもあったため、これからでも間に合うと商売に出かけて行った。