「(笑)」と「(泣)」の位置が逆
佐藤麻優(さとう・まゆ)さんは原町高等学校2年5組(一般コース)。文系志望だ。「父は原町の教育事務所、母は隣町の中学校で務めています」。立花さんと同じく相馬市に家がある。取材のときは将来の仕事の話を訊くことを優先していたので、被災状況を訊くのは後回しになった。取材後にメールで訊くと、こういう返事が返ってきた。
「放射能の影響があったのでほとんど家で過ごしていました。というか、家から出させてもらえませんでした(笑)。家の中では、できる範囲で高校の準備をしたり、好きなピアノを弾いたりしていました。あとは、いつから高校が始まるのか、学校から直接電話が来るシステムだったので、電話を待っていました。勉強は取っていた通信教育を少しずつ進めていましたが、正直、ほとんどやっていませんでした(泣)」
「(笑)」と「(泣)」の位置が逆のように思えるが、じっさいに佐藤さんはこう書いてきている。東京で勝手に想像する「大変な被災地」と、じっさいにそこで暮らす高校生の感覚は、こちらの思い込みにぴたりと重なるものではない。前述のように、震災直後の原町高校は5月9日にサテライトキャンパスを使って授業を始める。それまでの間「好きなピアノを弾いたりしていました」という佐藤さんが目指す仕事は、それを活かすものだ。
「小学校の音楽の先生です。中学校とか高校じゃなくて、小学校がいいんです。きっかけはいっぱいあるんです。まず、ちっちゃい子が好きだから。あと、3歳の頃からピアノを習っているんで、音楽を生かしたいっていうのと。あと、小学校5年生のときの担任の先生が音楽の先生で、すごいいいなって」
小学校の音楽の先生になるため、どの大学に行くというイメージはありますか。
「理想は東京学芸大学です。第二志望はまだ決まっていません。小学校の音楽専攻(課程を持つ大学)っていうのが少ないんですよ。音大とかからも行けるんですけど、やっぱり教育学部から行きたくて。そのためには、普通の学力プラス、二次試験とかに実技のテストがあるんですけど、それで使うのがすごい難しい曲なので、いま半年ぐらいピアノやめてるんですけど、もう1回再開して。プラス、やっぱり小学校だから、ちっちゃい子と一緒にやる音楽も知らないといけないし。小学校の先生なんで、5教科全部教えるじゃないですか。だから、そっちもやっぱりちゃんとやらなきゃいけないっていうか」
「TOMODACHI〜」のプログラムで話を聞いた大人たち。誰の話が印象に残っていますか。
「外国人の旦那さんを持つ美容師さん。ホームステイをしながら学校に通い、その家のベビーシッターをしていて保育士を目指していた方。アメリカで日本のお寿司屋さんを営んでいる方」
美容師、ベビーシッター、寿司屋。バラバラのように見えるが、そこには共通項がある。
(次回に続く)