働いても働いても家計が楽にならない……と嘆いている人もいるだろう。それもそのはず。従業員一人の企業から5000人以上の企業までを対象とする国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、2011年の平均給与は00年より11.28%も減少しているのだ。これでは家計が苦しいのも当然だと言える。

その一方で、企業が株主に支払う配当金は増えている。12年のTOPIX(東証株価指数)連動型ETF(上場投資信託)の100口当たりの分配金(配当)は、支払いが始まった02年の5.6倍になっている。ちなみに、TOPIXに連動するETFは3銘柄あり、この数字はその平均値だ。

それにしても、なぜ配当金が増えたのか。理由は2つ考えられる。1つ目は日本企業の利益還元の考え方が変わったことだ。かつては、企業が利益をあげるとボーナスなどの形でまず従業員に還元された。だが、今では利益還元の対象として、従業員より株主を重視する企業も多い。もう1つの理由は、01年の商法改正で、従来は当期純利益からしか出せなかった配当金が、剰余金からも出せるようになったことだ。つまり、その期が赤字でも配当を出せるようになったのである。

その結果、何が起きたのか。たとえば、パナソニックでは、12年3月期の連結最終損益は、過去最大の7721億円の赤字となった。これを受け、同社では会長と社長は3割、その他の役員は1~2割役員報酬を減額。約7000人いる本社の従業員を150人程度に削減する方針を打ち出した。にもかかわらず、株主への配当金は、前期や前々期と変わらなかったのだ(2013年3月期は無配)。

剰余金は、将来の設備投資などに備えて、過去の利益を積み上げたものだ。それが配当として株主に還元されてしまう。しかも、配当は、配当を受ける権利が確定する日(権利確定日)の3営業日前(権利付最終日)に株を買って株主になれば、受けることができる。それどころか、権利付最終日の翌営業日(権利落ち日)に売却しても受けられる。極端ないい方をすれば、従業員が汗水垂らして働いて積み上げた利益が、たった1日株主になっただけの人にかすめ取られてしまうのだ。