すべてを解決したウチの師匠のひと言
怒られたのはラジオの本番前だった。だが、その後のラジオの本番中にも思い出し怒りというか、やはり私の所業が許せなかったらしく、公共の電波を使って私の糾弾を始めた。
「なんやねん三遊亭トムヤムクンって」「落語をなめとんのか」「いいかげんにせい」と怒りは収まらない。
師匠の怒りは落語を冒涜されたという点にある。正直、このまま番組を降板させられてもおかしくないくらいの怒り方だった。
「お前の師匠はどう言ってんねん。さぞかし、怒ってたやろ」
お前の師匠も腹を立てているに決まっている。そう思ったのだろう。
ウチの師匠は店をオープンすることを報告するとこう言った。
「そうか。これからはタイ料理の時代だね」
共演者やスタッフさんはもちろんのこと、鶴瓶師匠も思わず「グフフ……」と笑った。この世界は笑わせたもん勝ち。笑ってしまったら負けである。
「……だったら、ええ。いい加減な一門やで、ホンマ」こうして師匠のおかげで、レギュラー剥奪の危機を逃れたのであった。
酒が飲めれば入門できる
何度、師匠と酒を飲んだことだろう。
師匠は酒が大好きだ。ご自身も酒のしくじりで23回も師匠から破門されている折り紙付きの“飲兵衛”である。現在77歳。前より弱くはなったのだろうけど、それでも毎日飲み歩いているから、弟子が言うのもなんだが、たいしたものだと思う。
師匠の行く先は大体決まっている。自宅近くの居酒屋から、カラオケスナック、朝までやっているイタリアン。なんだ、朝までやっているイタリアンって……。そして上野のフィリピンパブ。ここのママがおかみさんにどことなく似ているのはナイショである。
行きつけの店には足繁く通うから、店の覚えもめでたい。みんながチヤホヤしてくれるから師匠も上機嫌でグラスを空にしていく。お供する弟子はその日によって違うが、翌日仕事があったり、先約があるものは参加しない。1年中やっているラジオ体操みたいなものだから、1日くらい休んでも文句を言われることはない。
最初に「酒が飲めれば入門」と言われたが、あながち間違いではない。とにかく宴会ばかりである。用もないのに一年中集まっている一門は絶対にない。落語会の終わりはもちろんのこと、何かにつけて宴会。先日は近所に美味しい割烹がオープンしたからと、師匠の家にみんなで集まり宴会したのは意味がわからなかった。