ネットの発達によって、情報の偏りに気づきにくくなった
ワクチン政策に対する賛成・反対は、人それぞれの考え方であり、そうした情報発信をするのは個人の自由だ。ただ、より正しい情報にたどり着くには、それなりの工夫や注意が必要だと鳥海氏は言う。
「そもそも人間はすべての情報に接することはできません。結局自分が接した情報のなかから判断することになります。人は得てして、自分が接している情報が全てだと思いがちです。それがどんなに偏っていても、その偏りに気づくことができない。SNSを含むインターネットの発達は、これに輪をかけることになりました。
一度検索した言葉や、クリック、フォローしたアカウントなどの情報に近しい情報が多く表示されるようになります。そのために、検索すればするほど接する情報が偏っていくという現象が起こる。陰謀論などに取り憑かれる構造はこうしたところにあるのだと思います」
「情報的健康」に意識を向けるべき
また、インターネットから離れたとしても、偏った情報から完全に離れるのは難しいという。
「テレビや新聞、雑誌なども含めて、既存のメディアもインターネットに流通している情報の影響を受けています。現代社会を生きるわれわれにとって、偏った情報やそうした情報の影響を受けていないメディアに触れることは実質的に不可能だと言っていいでしょう。
たとえば、以前、ジャーナリストの方と話をしていて『私はさまざまな情報を収集しているので偏っていないはずだ』と主張されましたが、実際に分析してみるとその方のアカウントが接する情報にも偏りがあることがわかりました。もちろん、ネットに溢れる信頼性の低い発信者や情報に与えられるがまま接触するよりは、接触する情報に気を付けている方のほうが偏りは少ないのでしょう。ですが、情報のプロでさえ偏ってしまうわけですから、われわれはどれだけ注意しても偏った情報に接してしまうと認識すべきです」
情報過多社会に生きるわれわれは、どういったところに気をつければいいのだろう。鳥海氏は「情報的健康」という言葉を使って説明する。
「ジャンクフードは食べ過ぎると栄養過多になって健康を害します。でも美味しいからついつい食べてしまう。情報も同じです。一見面白そうな情報の中にはジャンクなものも紛れ込んでいるものです。時には冷静になって、一見美味しくなさそうだけど、しっかり裏取りされた情報に触れることも情報のバランスに気を使いたいのであれば必要でしょう。健康でいるためには摂取しているモノ(食事・情報)が何なのか知ることが重要です。
幸いなことに、諸外国に比較して、日本はマスメディアに対する信頼度が非常に高い国です。もちろん、新聞や雑誌、テレビのニュースなど、これらのマスメディアがすべて正しい情報を流しているとはいいませんが、ネットに跋扈するジャンクな情報よりは信頼度が高いといえるでしょう。盲目的に信じるかどうかは別として、マスメディアの情報に定期的に触れておくことも、『情報的健康』を保つうえでは有用だと私は考えています」