大槌—おばあちゃんの喧嘩
「初めてボランティアで介護施設に行ったとき、おばあちゃん同士の喧嘩を見たんです。口喧嘩ですけど、テーブルを叩く場面もありました。その時は介護ボランティアの経験がなくて、そういった場面に直面したことがなかったので、どうしたらいいのか、わかりませんでした。人って、喧嘩をしているとき、周りが見えなくなってしまうと思うんです。とりあえず『止めなきゃ!』と必死に声をかけたんですけど、まったく止められず……。結局、近くにいた職員の方がおばあちゃんの肩をさすりながら笑顔で優しく声をかけてその場は収まりました。その時、ただ声をかけるのと、触れ合いながら声をかけるのではまったく違うんだなぁ、と思ったんです。
あのとき、正直、私はびっくりしてしまって、笑顔で話しかける余裕なんてありませんでした。そんな時でも笑顔で優しく声をかけることができる職員の方は、本当にすごいなぁと感じました。職員の方を見ていて思ったんですけど、会話って、相手から声をかけられるのを待っているんじゃなくて、自分から積極的に、笑顔で声をかけていかないといけない。私は話しかけるタイミングもわからなかった。最初は緊張して話しかけることもできませんでした。でも、自分から話しかけていかないと何も学べないと思って、勇気を出して話しかけました。おばあちゃん、笑顔で答えてくれて、本当に嬉しかった」
「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」の3週間で、東さんは目指す仕事に関わるヒントをひとつ手に入れている。
「自分の意見をちゃんと言って、人の話を聞いて……ということが大切だと気づいたことです」
「TOMODACHI〜」のテーマは"リーダーシップ"だった。被災地の未来を担うリーダーの育成が目的だ。その具体的なカリキュラムとして、高校生たちは期間中ほぼ毎日、午前中、課題の発見、解決方法の立案をグループごとに討議し、最後にプレゼンテーションするという経験をした。帰国後の高校生たちに話を聞いても、「故に、私はリーダーになろうと思いました」という反応はほとんどなかった。実際、リーダーというものは3週間のカリキュラムの中から誕生するものではないだろう。大事なことは、約3週間ぶっ続けで「課題の発見、解決方法の立案、プレゼンテーション」の実際を体験するというカリキュラムが、日本の高校生には新鮮な体験だったということではないか。人の話を聞き、自分の意見を言う。あの3週間でそれが大事なのだと気づいた。そう語った高校生は、この連載の中に何人も登場することになる。
プレゼンテーションを実地で学んだ体験は、東さんの部活動にもプラスの影響を与えたようだ。
「部活はインターアクト部です。ボランティアをやる部活です。まだまだ力が足りないので、たくさんボランティアに参加して成長していきたいです」
東さんは部長を務めている。インターアクト部は、学校単位で実施されているエコ活動のコンテスト「イオン eco-1(エコワン)グランプリ」の東北東ブロック代表校3校のひとつに選ばれ、11月24日に東京で開催された全国大会(最終審査)に出場した。出場前に送られてきたメールには「顧問の先生が今年で退職するので、恩返しができるように頑張ります」と添えてあった。残念ながら入賞は逃したが、壇上の東さんは、仲間と一緒にしっかりとスピーチをやり遂げた。会場のスクリーンには、インターアクト部と大槌高校が大槌町の各所に置き始めている花のプランターが写されている。そこには生徒の誰かが書いた「これからの大槌町は私たちに任せてください」という文字が見えた。
■イオン eco-1(エコワン)グランプリ
http://www.eco-1-gp.jp/index2.html
(次回に続く)