違反業者には、数千万円単位の損失か

田川市でふるさと納税を担当する田川市役所たがわ魅力向上推進室の担当者は、筆者の取材にこう話す。

「年明けに福岡県に投書が届いたのがきっかけでした。田川市内に小規模な工場があることは市の職員が確認していたのですが、業者に確認したところ違反があったとの申し出があり、問題が発覚しました」

一方、おせちを製造した「久松」の松田健吾社長は、こう話した。

「寄付者や自治体などさまざまな方にご迷惑をお掛けし、大変申し訳ない思いです。社としては田川市の工場で製造する予定だったのですが、現場の工場に正しく指示が伝わっていませんでした。社内の連絡ミスが原因で、私自身の力不足を痛感しています。二度と同じことを起こさない覚悟で、全力で信頼回復に努めたい」

久松では田川市内に大規模な工場を建設中で、今年6月に完成予定。だが、30坪程度の小規模な工場がすでに田川市内で稼働しており、当初はそこでおせちを製造する予定だったという。

負担額については現在取りまとめている最中で、全額を久松が負担する。田川市への「おせち」を指定した寄付は4920件、計1億7808万円にのぼっている。また、同社では福岡県古賀市でも同様の違反があり、そちらは1083件、計4164万8000円となっている。申請者の人数にもよるが、数千万円単位での損失を計上することも十分考えられる。

60代男性が入手した「おせち 博多」
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60代男性が入手した「おせち 博多」。正月は家族でこのおせちを食べた

代替品は「返礼品と同等のもの」

代替品については、田川市の担当者と話し合いながら決めたという。

「背伸びしすぎて極端に豪華なものになってもおかしいし、あまりにも下回ってしまうのも良くないので、市の担当者と協議の上で『返礼品と同等のもの』として今回の内容となりました。代替品の費用については、すべて当社が負担します」(松田社長)

最初に送ったおせちは、ふるさと納税の返礼品基準に則れば、いわば欠陥商品。基準を満たした“正しい商品”を代替品として送り直すのが妥当と判断したわけだ。

「ただ、おせちでは年末までお待たせすることになってしまうので、おせちと同等価値の商品もいくつかご用意し、お選びいただく形としました」(松田社長)

「代替品」のカタログ
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「代替品」のカタログ

基準違反が生じた場合、自治体や業者はどう対応したら良いのか。総務省の担当者はこう語る。

「各自治体や事業者には基準を守ってもらうことが大前提なので、違反した場合にどうすべきかは、そもそも想定されていません。ただ、悪質な場合は登録取り消しということも考えられます」

返礼品をめぐっては、すでにさまざまな違反が報告されているが、それらは氷山の一角かもしれず、正直者がバカを見ている可能性も十分考えられる。