ふるさと納税の返礼品をめぐる「違反」が後を絶たない。都内に住む60代男性のもとには、寄付先の自治体で違反が明らかになったとして、目を疑うような「お詫び」が届いたという。ノンフィクションライターの西谷格さんが取材した――。

ふるさと納税をした市から届いた「妙な郵便物」

都内在住の60代男性の自宅に今年2月、妙な郵便物が届いた。差出人は福岡県田川市の村上卓哉市長。標題は「福岡県田川市ふるさと納税返礼品地場産品基準違反に関するお詫びについて」となっている。

男性は、田川市に3万8000円の「ふるさと納税」を済ませており、返礼品として重詰めの「おせち 博多」(販売価格1万5800円)を入手していた。正月は家族でこのおせちを食べた。何か問題があったのだろうか。文面はこう続いていた。

返礼品取扱事業者「有限会社久松」が提供する「おせち」について、総務省が定めるふるさと納税返礼品の地場産品基準に違反していたことが当該事業者からの報告で明らかとなりました。

「本おせちは田川工場でお作りした食材をお入れしています。」と記載の上、寄附の募集を集って(※原文ママ)いましたが、実際には田川工場で製造した食材が入っておらず、福岡県粕屋町の同社本社工場において製造されていました。

60代男性の自宅に届いた田川市からの「お詫び」
読者提供
60代男性の自宅に届いた田川市からの「お詫び」

代替品として「もつ鍋12人前+和牛1.1キロ」

ふるさと納税の返礼品には、その土地と関わりの深いものでなくてはいけないという規定がある。つまり、今回の場合は、田川市内の工場で製造されたものである必要があった。粕屋町は田川市から約40キロ離れている。

田川市は今後の対応として①「寄附金の返金」または②「代替品の送付」を提示。男性は「代替品の送付」を選択した。驚いたのは、「代替品」の豪華さだ。男性が言う。

「おせちは別に腐っていたとか異物混入していたとかいうこともなく、美味しく食べました。おせちとしては、何の問題もありません。お詫びの品を用意するならキーホルダーとかボールペンといった粗品程度で十分と思ったのですが、内容がものすごいんですよ」

市が提示した代替品は以下の5パターンのなかから選べるものだった。

ア おせち博多1個+辛子明太子(切子)200グラム
イ 博多和牛1100グラム+国産牛もつ鍋12人前(醤油味)
ウ 博多和牛1100グラム+博多水炊き10人前
エ 博多和牛1100グラム+うなぎ蒲焼200グラム×2尾(有頭)
オ 博多和牛1100グラム+辛子明太子(特切)2キロ(1キロ×2)

おせち(ア)は24年12月30日までに到着し、博多和牛セット(イ~オ)は4月末までに発送する。いずれも「地場産品基準」を満たしているものだ。「おせち 博多」は同社サイトで1万5800円で販売されている。辛子明太子(切子)200グラムの一般的な価格は、1000円前後だろう。

「もつ鍋12人前とか明太子2キロとか、量もすごいですよね。何もここまでしなくても……、と私は思ってしまいました。ラッキーというか、『焼け太り』の感がある。返礼品のお金はどこから出ているの? という疑問も抱きます」

3万8000円のふるさと納税に対して、2回に分けて市場価値としては3万2600円相当の品が送られてきたことになり、感覚的は80%以上の返礼率(還元率)になったともいえる。

男性は代替品「博多和牛1100グラム+国産牛もつ鍋12人前(醤油味)」を選んだ
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男性は代替品「博多和牛1100グラム+国産牛もつ鍋12人前(醤油味)」を選んだ