宮本信子は今作が最上の適役
「○○の女」と言えば宮本信子。夫の故・伊丹十三監督の映画でありとあらゆる「女」を主演してきたが、配信していないので若い方は観たことがないかもしれない。あの頃の毒とユーモアと鋭さ、そして可愛らしさが今作で味わえたことがとても嬉しい。
隠居の身として達観しつつも、家族を俯瞰し、何でもお見通しの祖母役は、最も忍びっぽくて神秘的な存在感だ(特に白石加代子とのシーンが面妖で好き)。実際、宮本の一言と怪訝な表情で、経緯や背景が明らかになる場面も多い。
『あまちゃん』(2013年・NHK)の夏ばっぱ役も痛快だったが、連ドラでは総じて「おしゃれ・優しく・余命幾許」の役柄が多い。もっと毒とユーモア、そして茶目っ気がほしかったところに、今作が。最上の適役である。
空回りは江口洋介の十八番かもしれない
それぞれの家族への思いがすれ違う点も見せ場であり、重要なところだ。
江口が演じるのは、一番強く家族の絆を取り戻したいと願っているが空回りする哀しき父。前半は全国の父が涙しそうなくらいの「父の哀愁」を、後半は服部半蔵の末裔らしいしなやかさを見せた。懐かしいところで言えば、『ひとつ屋根の下』(1993年・フジ)や『ランチの女王』(2002年・フジ)など、家族をまとめようと空回りする印象も根強い。空回りは江口の十八番といってもいいのかもしれない。
蒔田が演じる凪は、忍びの基本を教えてくれた長兄を慕ってきた。長兄への思慕が強すぎたこともあって、罠に落ちる役だ。
蒔田は子役として数々の作品に出演し、『おかえりモネ』(2021年・NHK)では姉に複雑な思いを抱く妹役で脚光を浴びた。連ドラ初主演の「わたしの一番最悪なともだち」(2023年・NHK)では、友人の経験を自分の経験として語って就職した罪悪感を抱えるヒロインだった。
言語化しにくい苦痛や罪悪感を抱える役はお手の物。長兄に「ある種の理想」を抱いていたが、事実を目の当たりにして落胆する役でもある。もし続編があるならば、蒔田の心情変化に最も注目したいなと思わせた。
「家族という欺瞞」
長兄・岳を演じた高良は、整いすぎた顔立ちで「正義」も「邪悪」も感じさせる役者だ。中途半端な偽善者役も秀逸だが、振り切った人間を演じるときのほうが殺気や悪意が滲み出る気がするんだよね。
今回は「家族という欺瞞」に言及する役回りでもあり、この作品に痛みと凄みと迫力を与えている。
最後は末っ子の番家だが、彼の望みは「家族の一員」になること。忍びの一族と知らず、幼いながらも疎外感や違和感を覚えている役だ。劇中で連続バク転を披露し、忍びの素質アリと思わせたし、昭和の子役のような素朴さも残っている。
というわけで、俵家の面々がそれぞれの役割を果たし、矛盾や齟齬をきたしながらも「忍び」と「家族」の両立を体現していく。