賀来賢人が魅せる「優しさは弱さである」の原点

賀来は、もともとは中途半端な二枚目枠で研鑽を積んできた俳優だ。上昇志向の強い青年や思慮の浅い男、楽観にもほどがあるお調子者など、黙っているとただの二枚目になってしまうのは役者として弱点であり、その克服に鋭意努力してきた印象も。多彩な役を演じてきた中で、今回の晴役に繋がっていく要素があった。

Netflix「忍びの家 House of Ninjas」公式ページより
Netflix「忍びの家 House of Ninjas」公式ページより

朝ドラ『花子とアン』(2014年・NHK)では、ヒロインの屈折した兄・吉太郎を好演。貧しい農家の長男だが、優秀な妹や無責任な父、無力な母と、珍しく「長男優先主義ではない家庭」に育ち、アイデンティティの揺らぎから軍人を目指す。憲兵になって周囲から恐れられ白眼視されるも、本当は心優しい兄でいたかったはず。きょうだいコンプレックスの歪みを体現していた記憶がある。

個人的には、主演で最高傑作は『死にたい夜にかぎって』(2020年・TBS系)だと思う。うつ病と不安障害を抱えたエキセントリックな恋人・アスカ(山本舞香)との6年間を描いたドラマで、賀来が演じたのは作家志望の編集者・浩史。

女性に振り回される星のもとに生まれた男の悲哀、いや、愉楽、とでも言おうか。とにかく女性に優しくて、顔を殴られようが罵られようが首絞められようが浮気されようが、発想の転換で許容する。レスリング選手だった父(光石研)に鍛えられたおかげで、首ブリッジができるほど首が強く、お仕置きで焼却炉に閉じ込められてからは閉所恐怖症だ。

アスカと同棲してはいるが、満たされない部分は風俗店で解消したり、部下の女子にほだされたりで、弱い部分も山ほどある。賀来の持ちうるありとあらゆる色気を封印したのに、最も魅力的な男性に仕上がっていた。

根が優しいからこそ心を開けなかったり、優しさが相手の成長や自立を妨げたり。優しさは巡り巡って弱さへ。弱さは人物に奥行きをもたらし、物語に緩急をつける。鍛えた体も含めて、晴というキャラのいしずえが築かれていった(気がする)。

人妻役をやらせたらピカイチの木村多江

線の細さと影の薄さから薄幸系と呼び声の高かった木村多江。理不尽なDV夫に共依存する女など、虐げられても楚々と耐える役が多かったからだ。

ところが、『ブラックリベンジ』(2017年・日テレ系)では濡れ衣を着せられて死んだ夫の復讐に勤しむ主役を演じ、『あなたには帰る家がある』(2018年・TBS)では狂気の不倫妻を演じて、男が最も手を出してはいけない人妻役三傑に昇格(他は水野美紀と松本まりか)。

きわめつきは「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」(2021年・NHK)だ。安藤玉恵とともに阿佐ヶ谷姉妹を完コピし、コメディ筋肉を覚醒。

その筋肉を活かして、今作ではコメディリリーフとして君臨。華麗なアクションで、というよりは女の図々しさとしたたかさと可愛らしさで笑わせてくれた立役者でもある。夫や息子のように綺麗事言ってられないんだよ、稼ぎがないんだから。

食費も学費もない家計を救うべく、任務をしれっとこなし、ターゲットの婚活相手として若作り作戦も頑張るわけさ。おまけに、夫の秘書(河井青葉)にうっすら嫉妬したり、任務中に夫とさかっちゃう可愛げもあって、多江の魅力が満開だ。