タバコを吸わない人から「ありがとう」が届いた

――喫煙所を設置した後、近隣の方からクレームが入ることはないのでしょうか。

周辺の方々との合意形成を重視していたとはいえ、相当のクレームが来るんだろうな、と覚悟はしていました。しかしSNSを含めて苦情はほとんどありませんでした。

確かに一部のマナーの悪い利用者がおり、「扉が開いたままになっていて煙が漏れていた」などと注意を受けたことはあります。喫煙所は閉店時間になると自動施錠されるのですが、利用者から「外に出られなくなった」とご連絡をいただいたケースもありますね。

しかし、むしろ驚いたのは、タバコを吸わない方からの感謝のメッセージが多く寄せられたことです。「ありがとう、よく喫煙所を設置してくれた」「駐車場でタバコを吸う人がいなくなった」という言葉をいただき、喫煙所を設置してよかったと感じました。

――喫煙できる場所がなく、路上喫煙の問題がニュースになることもありますね。

かつて私も1日2箱近く吸うヘビースモーカーでした。喫煙者の気持ちはよく理解しているつもりです。これまで受動喫煙を防ぐため、分煙ではなく、タバコを吸う人を締め出す方向に進んできたように感じます。

最近では、大学が喫煙所を廃止し、キャンパス周辺で路上喫煙をする学生が増えたというケースを聞いています。昼休みの時間帯に、サラリーマンが公園や路地裏に集まってタバコを吸う光景が問題視されるケースもあります。

市ヶ谷駅前の公園。路上喫煙の指導員が立っていた
撮影=プレジデントオンライン編集部
JR市ヶ谷駅前の公園。路上喫煙をする人はいなかった。歩道に立つのは路上喫煙の禁止を呼びかける指導員

安心して利用できる喫煙所が欠かせない

完全禁煙を宣言し、オフィスビルや学校など各種施設から喫煙者を締め出すことは容易です。しかし、喫煙所を減らした結果、締め出された喫煙者が路上でタバコを吸うことで、受動喫煙が助長されることになります。これでは本末転倒です。

多様性のある社会が唱えられる中で、タバコ(を吸う人)=悪と決めつけるのは間違っています。今必要なのは、タバコを吸わない人も、タバコを吸う人も快適に過ごすことができる空間です。そのためには喫煙者が安心して利用できる喫煙所の存在が不可欠です。

――区の助成制度がなくなった場合、喫煙所はどうなるのでしょうか。

現在の助成制度は「無料で運営すること」が大前提です。制度がなくなれば、喫煙所の運営は難しいため有料化、例えば月500円程度のサブスク型にすることもあり得るでしょう。

しかし無料のほうが利用頻度は高く、路上喫煙や分煙対策にも効果的です。助成金がなくなったから撤退します、というわけにはいきません。

芳屋社長
撮影=プレジデントオンライン編集部
助成金がなくても喫煙所を維持できる仕組みを考えている