Q:「再現可能(リピータブル)なモデル」で成長している企業として、アップルを挙げておられますが、アップルは過去の成功を繰り返しているというより常に新たな市場を創りだしているイノベーターの印象があります。
もっともイノベーティブな企業ほど再現可能なモデルを実践しています。アップルはユーザー経験の改善のために考え抜き、デザインにこだわり抜いた商品を出し続けています。素晴らしいユーザー体験、誰もが認めるデザインのよさ、そうしたものを別の商品においても再現しているのです。
逆の例を挙げましょう。ノキアは非の打ちどころのない再現可能なモデルを備えた会社でしたが、「リピータブル」の解釈をまちがえました。ノキアは携帯端末の市場の変遷を乗り越えて成長していく過程で、どんどん視野を狭めていきました。こだわったのはコアとなる顧客ではなく、自分たちのソフトウエア、ハードウエア、そして自分たちのやり方でした。顧客志向を忘れてしまったところにノキアの成功が再現できなくなった原因があると思います。
Q:強みにこだわることはそれほど難しいことなのでしょうか。
いままでの企業の歴史を振り返ると、コアとなる資産をあまりにも早く諦めることが繰り返されてきました。たとえばカミソリメーカーのジレットです。同社は「カミソリにこれ以上革新はない」と諦めて、周辺領域を拡大しました。一時は電池事業、筆記用具、時計、と、カミソリと一緒に買ってもらえそうなものなら何にでも手を出して足元をすくわれました。これらの事業から撤退し、コアであるカミソリ事業の周辺で「女性用カミソリ」「アフターシェーブローション」「洗面用具」といった事業に集中していった結果、再生したのです。
デルも本来の強みである直販事業だけでは限界があると小売りにまで手をひろげて痛手を負いました。核となる事業に「成長ののびしろはない」として不慣れな分野に事業を拡大することは、コア顧客を早々に諦めることでもあります。革新がなければものが売れないかといえばそんなことはありません。私たちの研究では、「持続的に価値を創造している企業」の9割以上が、(新事業、新市場への進出などではなく)コア事業で競争優位性につながる強力な差別化を打ち立てています。