Q:再現可能なモデルを実践するには、リーダーシップが不可欠と本にはありますが、リーダーは簡単に育てられるものではなく、ヘッドハントしてきた経営者がその企業のコア事業について深い理解があるとも限りません。
企業が大きくなって、組織が複雑化すると、その複雑性を管理できる人が出世するという構造ができてきます。そうなると本来のミッションに従って成果を出そうとする人はなかなか出世できないことになります。では、どういう人を発掘し、昇進させるべきなのか。お客様の声に耳を傾けることができる人、現場の声に耳を傾けることができる人、それらを成果物としてかたちにできる人です。こういう人たちを出世させて報酬を与えるべきです。複雑性を管理することだけに長けた人が評価されるようになると、外圧なしに変わることが困難になります。
旧ソ連でゴルバチョフのような人が誕生するためには、外部からの危機が必要でした。レゴやユニリーバといった会社も経営の危機に陥ってはじめて創業者の信念や目線を取り戻したのです。再現可能なモデルを指揮するリーダーが生え抜きであってはいけないという理由はありませんが、往々にして組織が複雑化していくなかで、その複雑さを解決する能力に長けた人が出世してしまうのは問題です。
Q:日本には経営者人材が不足しているといわれています。
幸いなことに、日本のいまの経営者は創業者からそれほど隔たっていません。大きな成功をおさめた大企業の創業者の意志を脈々と次ぐ人たちが企業のなかにまだいます。再現可能なモデルに立ち戻る猶予があるのです。1989年に私がハーバードビジネススクールにいたとき日本企業は世界から崇拝されていました。日本企業がいま取り組むべきはまったく新しいことを始めることより、自分たちの原点を再発見することです。そこでいちばんの問題は、事業や組織が複雑になりすぎて、自分たちはだれなのか、自社たちの存在意義は何かを見失っていることです。
たとえばソニーはかつてウォークマンを発明し、かつては地球上でもっとも尊敬されていた企業ですが、顧客のニーズよりもそれぞれの事業部門の成長に焦点を合わせたために、アップルに大きく溝をあけられました。ソニーのウォークマンの物語には、何にもかえがたい価値があります。ウォークマンは、人がどんなふうに音楽を聴きたいかをとことん追求したイノベーションでした。ソニーにはこうしたものを生み出す能力があり、それを再現できるはずです。
ソニーの問題の多くは、複雑性に端を発しています。顧客の求めていることは何かではなく、複雑性な組織をどう動かすかということにエネルギーをとられすぎてしまったのだと思います。ナイキでは「ナイキであるためにもっともゆずれない4つのこと」を経営陣に聞くとどのエグゼクティブからもまったく同じ答えが返ってきます。ソニーをはじめ、いま窮地にある日本企業で、同じことがいえるでしょうか?