「うまい棒」が定番だった
一方、小規模の当所では同様のものを買うにしても割高になるため、より予算が厳しいのだ。
それゆえ、当所ではきっちり60円分のお菓子を出していた。小袋のスナック菓子と、予算合わせの「うまい棒」というのが定番スタイルだった。
年末年始や行事のときしかレギュラーサイズのお菓子を出すことができず、彼らにとってレギュラーサイズのお菓子は憧れだった。しかし、これが大手刑務所さんだと簡単にクリアできている。
そのため、大手刑務所から移送(転勤)されてきた受刑者は、
「○○刑務所のほうがお菓子がよかった」
などと平気で言うから、「腹が立つ!」「人の苦労も知らんくせに!」と暴れたい気持ちになるのだ。
「ほかの刑務所よりおいしいです」
なぜ、彼らの声が耳に入るのかというと、刑務所では、年に1回、嗜好調査として給食アンケートを実施しているからだ。
回収したアンケートには、「まずい」だの「○○刑務所のほうがよかった」だの、ここぞとばかりに苦情を言いたい放題のものもあれば、「ほかの刑務所よりもおいしいです」といったものもあるし、感謝の言葉で埋められたものもある。
アンケートは無記名だが、工場名と称呼番号から個人が特定できてしまう。とくに印象深かった回答がある。「早いものでこのアンケートに答えるようになって4年目になります。思えば……」と切々と綴られた、私に対する手紙のようなスタイルになっていた。後日、彼は「先生、僕のラブレター、読んでくれました?」なんて言ってくる。可愛い奴だ。
このアンケート結果は、年末年始の献立やお菓子の選定の参考にしている。そのため、ぜひ自分たちの意見を採用してもらおうと、かなり真剣に書き込む人も多い。
個人がそれぞれ別のお菓子をリクエストしてしまうと票が割れてしまい、結果的に採用される可能性が低くなってしまう。そのため、炊事工場、洗濯工場など、同じ刑務作業に従事している仲間同士で一致団結して同じ菓子名を書き、組織票を稼ぐ作戦に持ち込む。
アンケート回収までの2日間に、どうしたら栄養士にうまくアピールできるのか、どうしたらリクエストのお菓子が採用される確率が高くなるのか、大の男たちが真剣に相談している姿を思い浮かべるだけでおもしろい。