米国の大学進学は高校球児たちの新たな選択肢になるのか?
とはいえ、今回の佐々木の“選択”は高校野球界にとっても衝撃だったようだ。
甲子園常連校での指導歴もある現役の高校教諭は、「高校野球の指導者からすると、米国の大学に針路を取ることはまず頭にありません。最近は米国の大学進学を斡旋するスポーツ関係の企業が増えているとはいえ、まだまだ高校野球界に浸透していないので、思い切った選択だと感じました。ましてやスタンフォード大ですから、これまでの常識とかなりかけ離れた話だと思いましたね」と驚いていた。
高校卒業後も野球を真剣に続けたいと考えている球児の進路といえば、「プロ野球志望届」を提出して、NPB球団のドラフト指名を待つか、大学やノンプロ(社会人)に進むのが一般的だ。近年は独立リーグからNPBを目指す選手、それから米国のマイナーリーグに入団してMLBを目指す選手も増えている。
米国の名門大学で野球を続ける甲子園のスター選手はほとんどいなかったが、佐々木の挑戦で高校球児たちの“考え方”が変わるかもしれない。
前出の高校教諭も、「大学で野球を続けたい場合、東京六大学か、青山学院大や中央大など東都リーグのブランド校に進学したいと考えている選手が多い。希望の大学に入れないと、地方の大学に飛ぶことになりますが、それならば米国の大学に進学しようと考える選手が出てくるかもしれませんね」と話していた。
佐々木がスタンフォード大で華々しい活躍をすれば、米国の大学でプレーすることが高校球児の憧れになるかもしれない。NCAAとしても、日本のファンを増やすチャンスになるだろう。
甘くない世界だが、佐々木が活躍すれば安住アナも認めざるをえない
では、佐々木が米国で活躍できるチャンスがどれぐらいあるのだろうか。
「入学するより卒業する方が難しいと思う」とハーバード大卒のタレント、パックンが指摘しているように、まずは大学生活が大変だ。
NCAAは規則が非常に多く、学業で一定水準の評価を得ることができないと、試合にも出場できない。学業とスポーツの両立は日本の大学よりもはるかに難しいのだ。
そして野球の方でも簡単とはいえない。
米国の場合、高校野球で「甲子園」のような全国大会はなく、高校では複数のスポーツをする選手が多い。日本の高校球児とは環境が大きく異なる。
高校卒業後の伸びしろは米国の方があるといえるだろう。
佐々木は身長184cmで体重は110kg前後。立派な体躯を生かし高校3年間で放った本塁打140本は先輩の大谷翔平(ドジャース)や松井秀喜(元ヤンキース)、清原和博(元巨人)といったスラッガーを凌駕する。
国内では規格外ともいえるカラダだが、米国ではさほど大きいとはいえない。MLB選手(1028人/2022年)のデータでいうと、佐々木のポジションであるファーストの平均身長は189cmもあるのだ。
現在の実力でもNCAAでは活躍できるだろう。しかし、MLBを目指すなら、もっとスピードとパワーを身につけていかなければならない。
花巻東といえば、前出の大谷や菊池雄星(ブルージェイズ)といった先輩がMLBで輝きを放っているが、ふたりは大学に進学せず、日本のプロ野球を経由して、米国に渡った。
佐々木は卒業前にプロ選手になったとしてもオフシーズンなどで大学の単位を取得して、「最終的に卒業したい」と考えている。MLBに入団できれば、それも可能だが、NPBに入団することになると、かなりハードになるだろう。
佐々木はNCAAの野球で結果を残して、スタンフォード大を無事に卒業できるのか。偉大な先輩・大谷翔平の後光を借りつつ、文武両道を貫いてアスリートになれば、きっと辛口の安住アナも認めるに違いない。