幻の歌舞伎劇場「菊座」とは

この当時、演劇関係者の間では歌舞伎文化の衰退・消滅が心配されていた。外国軍の占領下で急速に西洋文化が広まるなか、日本の古典芸能である歌舞伎がないがしろにされていると危機感を抱いていた。

谷川彰英『増補改訂版 東京「地理・地名・地図」の謎』(じっぴコンパクト新書)
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そうしたなかで浮上した歌舞伎劇場の建設計画。劇場名も「菊座」と決定した。町名にも、新しい文化地域にふさわしいものをという声が高まり、都の都市計画係から「歌舞伎町」という提案を受けたのだ。

この一大計画はたしかに進行し、菊座は設計が終わって、あとは建設に移るばかりだった。ところが、着工が遅々として進まないうちに、大建築物の建設禁止令が出される。その結果、菊座とその横に建設される予定だった新劇用の劇場は、建設中止に追い込まれてしまったのである。歌舞伎はこの地で演目が披露されるどころか、劇場もなく今日に至っている。結ばれるはずの糸は断ち切られたままとなったのだ。

それでも歌舞伎町という地名は残り、吉田茂首相の主導による産業文化博覧会の会場に選ばれたのを契機として、一大歓楽街へと発展することとなった。歌舞伎町を構想した鈴木喜兵衛町会長のイメージとはかけ離れた施設が集まるエリアとなり、まったく様相の違う形で発展したのである。

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