「麻生の壁」の高さ

そのような人だから、麻生氏への抗議がなかったことは残念である。こういう場面でも上川氏が感情を表に出さないのは驚かないが、2014年頃からの、特に2017年の刑法改正後の社会の変化を知っているはずの上川氏だからこそ、慎重さを党内に対して発揮するのではなく、現場で声を上げている市民のことを思い出してほしかった。

自民党内の女性で上川氏が言えないのなら、誰が言えるのかという気持ちがある。それほどまでに「麻生の壁」は高いのか。

上川氏は失言報道後の会見では「さまざまなご意見があると承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と述べた。その数日後に野党議員(立憲民主党の田島麻衣子議員)からただされると、直接的な回答を避け「初当選以来、信念に基づき、政治家としての職責を果たす活動に邁進まいしんしてきた」「使命感をもって一意専心、緒方貞子さんのように脇目もふらず、着実に努力を重ねていく考え」「田島議員、ぜひWPS(女性・平和・安全保障)、一緒に頑張りましょう」と答えたという。

残念である。

上川氏の周囲が男性ばかりであろうことが。

いつかポーカーフェイスの仮面を脱ぎ捨てて

円の中に、たくさんの黒い丸と少しの赤い丸が入っている様子を想像してほしい。

女性が男性ばかりの職場で働くということは、女性同士の距離がそれだけ遠くなることを意味する。女性だけで固まることは難しく、男性によるその女性の評価やうわさ話の影響を受けて、男性が“つなぎ役”になる形で女性同士がぎこちなく知り合う。男性の評価が評価の基準になる。女性も男性の評価軸を内面化する。「それほど美しい人ではないが」をありがたく受け止める女性が評価を上げる。

松島みどり氏は2014年の法務大臣就任会見で「私自身、女性の政治家であるということを、普段はそれほど意識したことがありません」と断ってから、性犯罪刑法の話を始めた。女性であると意識したことがないとわざわざ言わなければならないことに“つらみ”がある。

「女性ならでは」「女性の輝く社会」「女性活躍」といった言葉で、どうしたって意識させられているのに。

でもいいです。上川氏の立場になって考えます。

私は本当に上川氏が遠からず初の女性首相になる日がくるのであれば、その瞬間にポーカーフェイスの仮面を脱ぎ捨て、いきなり全閣僚を女性で固め、麻生氏が泡を吹くのを見たいです。

そのような形で反旗を翻すために、今は力を温存しているんですよね。

期待しています、上川さん。

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