保険制度でやってはいけない「他目的への流用」
厚生年金の保険料率は2004年9月までは13.58%(半分は会社負担)だったものが毎年引き上げられて2017年9月には18.3%になった。1回の法律改正で10年以上にわたって引き上げることを決めたので、その後は国会審議にもかけられず、毎年負担が増えていった。13年間で4.72%も料率が引き上げられたのだ。法改正の時は、18.3%で打ち止めにしてそれ以上は増やさないという約束だったのでその後は頭打ちになっていたが、今回の子育て支援の財源として再び使おうとしているわけだ。官僚にとってはまさに「打ち出の小槌」なのだ。
これは保険なのだから、いずれ皆さんにも給付金として戻ってくるので税金とは違います、というのが説得文句だが、今回はこの「負担と給付」の関係が成り立っていない。つまり負担する人が将来、直接恩恵を受けるわけではない。子どもが増えればあなたの年金が安泰です、という言い方はできるが、そこには何の保証もない。つまり、保険制度としてやってはいけない他目的への「流用」に近いものなのだ。
上がり続けている国民負担率が一気に下がることはない
岸田首相は昨年秋の国会審議では、「実質的な追加負担は生じさせない」とする「負担」の指標を、国民所得に対する税や社会保障の負担割合を表す「国民負担率」で測ることを明らかにしていた。
2月9日に財務省が発表した国民負担率は、2022年度の実績で48.4%と過去最高を更新した。2023年度は46.1%に急低下する見込みを発表しているが、これはまったく当てにならない。1年前に2022年度の見込みを発表した際には47.5%と前の年度の48.1%を下回るとしていたのだが、結局蓋を開けてみれば48.4%とさらに負担は高まった。
2024年度は45.1%まで下がるという予想を出しているが、この十数年、財務省は毎年のように負担率は下がるという予想を出しながら、結局は毎年、負担率は最高を更新してきた。一度として予想通りになったことはない代物なのだ。
財務省は政府の経済成長予想などを機械的に当てはめて計算しているだけで、意図的に操作しているわけではないと言うが、政府の経済予測自体が常に過大になっているので、政府にとっては都合の良い予想数字が作れるということなのだ。まず当たることがない予想をベースに、「国民負担は下がります」と首相に言われても、まったく説得力がない。
上がり続けている国民負担率が一気に下がることはまずあり得ない。過去最高の国民負担率48.4%が、一気に46.1%に下がるという予想を平気で出し、それを前提に「負担が増えない」と言っていること自体、国民を欺いているとしか言いようがない。