憲法改正と次の総選挙の争点

一方、勝勢の自民党はどうか。安倍総裁は憲法改正を一つの争点にする意向を示している。

憲法改正は安倍総裁の悲願であり、そのために前政権時代の07年に国民投票法を成立させた。自分の手で憲法改正を成し遂げるために、恥も外聞もなく、党首に返り咲いたといっていい。

草食化した今の日本で憲法改正を選挙の争点にして盛り上がるかどうかは疑問だ。旧社会党や共産党が元気だった頃は護憲・改憲が議論になったが、国会議員も含めて憲法の成り立ちを理解していない日本人が多くなった今は、憲法を質すことに関心が向きにくい。「やるなら勝手にやれば」という雰囲気である。

ただし、日本維新の会の橋下代表と合体した慎太郎新党が安倍自民と手を組んで憲法改正を争点に持ってくると少し話は変わってくる。

安倍総裁も橋下代表も憲法第96条の「衆参両院ともに3分の2以上」という憲法改正の発議要件について、「2分の1に緩和すべし」という考えで一致している。

尖閣・竹島問題で強気の安倍総裁と、改革イメージが強い橋下代表が組んで、憲法改正をアピールすれば、あるいは選挙の争点になりうるかもしれない。

しかし、憲法改正の入り口は同じだが、憲法を変えて何をするのかという出口については、安倍総裁と橋下代表では全く考えが違う。

安倍総裁が目指しているのは「美しい日本」「強い日本」であり、まずは憲法第9条の改正である。

橋下代表もそれに近いことを言っているが、何よりこだわっているのは「統治機構の変革」、つまり「道州制」の実現だ。日本を行き詰まらせている中央集権体制を打破するために、統治機構を変革して道州制を導入する。そのための憲法改正である。

橋下代表は鹿児島から開始した全国遊説で有権者に訴えかけているが、そもそも「統治機構の変革」や「道州制」などという難しいテーマは選挙の争点になりにくい。

維新の会の課題は「道州制が実現したら九州はこうなります」「北海道では将来こういうことが可能になります」という具体的なビジョンを有権者に提示することだろう。

その意味では橋下代表は戦略を誤った。日本維新の会は次期衆院選で350人程度の擁立を目指すそうだが、維新の会に合流した“ガラクタ議員”と小泉チルドレンや小沢チルドレンよりもレベルが低い「橋下ベイビーズ」を日本全国に落下傘で送り込んでも、地方分権の具体的なビジョンなど示せるはずがない。関西・大阪を拠点にした純粋な地方政党として30人規模の議席確保を目指せば、政権与党が無視できない一つの勢力になれるはずだ。

次の衆院選で「憲法改正」の出口の違いを争点にできなければ、維新の会は安倍応援団に成り下がる可能性が高い。しかし自民党が与党に返り咲いて、維新の会が中途半端でない議席を確保できたら、いよいよ憲法改正のメドが立ったということで維新の会に連立を持ちかけてくる可能性がある。

橋下代表のベストシナリオは、大阪の基盤を強めながら、全国版の日本維新の会はみんなの党や慎太郎新党と(野合といわれても)組んで議席を確保し、そのうえで連立与党に参加する。政権に入って官僚にも本格的に地方分権に取り組ませ、最終的には憲法改正によって道州制の下地を整えることだろう。そうなれば、次の次の選挙では「統治機構の変革」「道州制」が争点にできる。

いずれにしても、今度の衆院選は日本の変化の兆しが見えてくるか否かの重要な選挙になる。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 AFLO=写真)