老いとうつ病には深い関係がある
うつ病には特に理由もないのに気分が沈む“本態性”のうつ病と、つらいこと悲しいことのせいで気分が沈む“反応性”のうつ病があります。
高齢者の場合は、圧倒的に後者が多いです。なぜなら、“老い”にはつらいこと、悲しいことが多いからです。デイケアルームに利用者さんがそろうと、私は各テーブルをまわって挨拶をします。
「おはようございます。今日は身体の調子はどうですか」
この問いにあらゆる不具合と嘆きが返ってきます。腰が痛い、手が震える、口が渇く、咳が止まらない、息が苦しい、もの忘れが激しい、めまい、耳鳴り、便が出ない、便が緩い、この頭痛はなぜ起こるのか、足のしびれはどうやったら治るのか、こんな病気を背負い込むとは思わんかった、歩けんようになるのが怖い、おむつをするくらいなら死んだほうがまし、寝たきりになったらどうしよう、もうこの手の麻痺は治りませんか、年を取ったらロクなことはない、嫁にも孫にも嫌われて、犬にも嫌われて、何もええことはない、苦しいばっかり、もうどうなってもええ、早く死んでしまいたい云々。
聞かされるこちらまで気分が沈みます。
痛みや不如意があっても、心の準備のある人は、ある程度、うつ病にならずに受け止められるようです。心の準備のない人、すなわちいつまでも元気でいられると思っていた人は、「なんでこんなことに」とか「こんなことになるとは」と、よけいな嘆きを抱えるので、反応性のうつ病になる危険が高まります。世にあふれるきれい事情報や、無責任なお気楽情報は、ほんとうに罪深いと思います。
病気ではないが不具合を訴える男性
高齢になれば、自然な老化現象以外にも、病気という心配と恐怖が襲いかかってきます。年を取ればそれも当たり前と思っている人は、比較的楽に受け止められるようですが、病気が怖くてたまらないという人は、病気以前にその思いに苦しめられます。
韓国人のLさん(80歳・男性)はでっぷりと肥えた大柄な人でしたが、ご家族から“病気のデパート”と呼ばれていました。実際に診断のついた病気はないのですが、不具合の訴えがデパート並みに多かったのです。
デイケアルームに到着しても、頻繁に診察を求めて外来の診察室に下りてきます。食欲がない、吐き気がする、夜が眠れない、オシッコのにおいがおかしい、腰がふらつく、だんだん歩けんようになるのが怖い、寝たきりになったら困る、便所にも行けんようになったら死ぬしかない等々。