事実婚の出生届の「プロ」がいる区役所

その後、さまざまな手続きで役所の窓口に行くたびに、私と子どもの姓が違うことの説明を求められた。「事実婚なので」と説明しても、「は? ジジツコン?」と役所の人にでさえ何度も聞き直された。それほどまだ当時は一般的ではなかった。

だが、前出の女性の場合、住んでいる区役所には事実婚の出生届の「プロ」のような担当者もいたという。その区では事実婚の場合、出産直後でも母親が出生届を提出する必要があり、産後1週間、ボロボロになった体をひきずるようにして区役所に出かけなければならなかった。

彼女たち夫婦は妊娠した際に「胎児認知」という手続きを踏んでいる。子どもがお腹にいる間に認知の手続きをしておけば出生届に父親の氏名が明記されるので、妊娠中に彼女の本籍地まで届出を提出しに行ったという。

赤ちゃんの手のひらに触れるお母さん
写真=iStock.com/fizkes
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事実婚は少数派といえ200万~300万人もいる

私が出産した18年前に比べ、今では事実婚を選んだ場合に子どもを含めてできるだけ不利益を被らないようにどうすればいいのか、知識も情報も行き渡っているし、役所の対応も柔軟になっている。不妊治療一つとっても、病院によって違いはあるものの、事実婚でも対応してくれる施設も増えてきた。「それでも」と彼女はこう話す。

「企業の結婚休暇やペアローンなど、同性婚が対象になっているサービスや制度でも、事実婚は対象外のものもあります。少なくとも同性パートナーに認められているものは、事実婚でも認めてほしい」

2022年の内閣府男女共同参画白書によると、事実婚の割合は2〜3%で、人口に換算すると200万〜300万人とされている。少しずつ事実婚という形が広がる中で、同性婚を想定したパートナーシップ制度を事実婚にも適用を広げる自治体も出てきている。

私がかつて編集長を務めていたオンラインメディア「ビジネスインサイダージャパン」の元インターンで、今は河北新報の記者をしている石沢成美(28)さんも、事実婚を選択している。事実婚を選択した理由は慣れ親しんだ姓をどちらか一方が諦めなければならないことや、改姓にかかる労力や費用を負担に感じたからだという。