「夫の姓である自分」が足枷になる

メディア企業で働く女性(38)も再婚の際に事実婚を選択した。1度目の結婚では法律婚を選んでいたが、夫と離婚を前提とした別居期間、気持ちは離れているのに、自身が夫の姓を名乗らなければならないことに強烈な違和感があったという。新しく人生をやり直したいと思っても、離婚していない以上、家を借りるにも再就職するにも「夫の姓である自分」しかいなかった。

女性は男性から距離を置き座る
写真=iStock.com/Koshiro Kiyota
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「そんな時に運転免許の更新の知らせが来たんです。この状態で更新したら新しい身分証にも夫の姓があと5年も残ってしまう。その時、『自分は自分のままでいたい』と強烈に思ったんです」

再婚した夫は8つ下。プロポーズの言葉は「事実婚であれば結婚してくれますか」だったという。

「周りに事実婚も増えてきていたので、夫の方にもそれほど違和感はなかったようです」

結婚に当たっては弁護士に頼んで、離婚の際の財産分与や慰謝料について取り決めた契約書を作ってもらった。子どもができたら、その時は別途協議するとしていた。

父親と子どもの親子関係を証明するハードル

私が事実婚を選択した2000年代前半は、事実婚という考えは知る人ぞ知るという感じだった。「事実婚を選んだ」というと相当物珍しがられた。高齢だった夫の両親にはとてもこの関係性は理解してもらえないだろうと考え、入籍したと伝えた(義父母は私たちが入籍したことを疑わず亡くなってしまった)。

結婚から2年後、子どもを出産する段階になって、改めて子どもの姓をどうするかを夫婦で話し合った結果、子どもは夫の姓にした。

事実婚の場合、出産後は自動的に母親の籍に入り、母親の姓になる。さらに母親とは出産を通して親子関係を証明する母子手帳などもある。だが、父親との親子関係を対外的に証明することは難しいだろうと、家庭裁判所で「子の氏の変更」という手続きをし、子どもは夫の姓を名乗ることにした。長時間に及ぶ出産でヘロヘロだった私に代わって、出生届から氏の変更届まで一連の手続きを進めたのは夫だ。