※本稿は、山田昌弘『パラサイト難婚社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
日本は今、「多様性」に戸惑っている
結婚生活のリアルを多くの人が知らない中で、それでも「結婚のイメージ」は独り歩きし、かつ固定化されてきたと言えるでしょう。
近年は世界的「多様性」の時代と呼ばれています。性自認や性的指向性、いわゆるLGBTQに関しても、広く語られるようになってきました。同性結婚やパートナーシップ制度を定める国も増えています(2023年6月現在、日本でも328自治体でパートナーシップ制度を設けています)。
しかし、だから「結婚も多様性の時代になった」と一概に評することはできません。むしろ日本は今、「多様性」に戸惑っていると言った方が近いのではないでしょうか。同性婚自体、日本の法律上ではいまだに認められていませんし、パートナーシップ制度も、病院で家族としての扱いがあり、公営住宅の入居が認められたりと一定の効果は発揮するものの、ある法学者に言わせれば、ほとんど法的効力はないそうです。夫婦別姓問題も、改正をめぐっての議論が起きてからかれこれ30年経つのに、ほとんど何の進展もありません。
「自分は昔ながらの結婚をしたい」という若者の本音
こうした現状は、「頭の固い政治家のおじさんたちが反対しているから」でしょうか。
私はそれだけとは思いません。日々、大学で若者と接している経験から、彼ら若い層にも、意外にもオールドタイプな価値観が蔓延しているのに驚かされてきたからです。
彼らは「デジタルネイティブ」と呼ばれる世代で、世界中の情報に瞬時にアクセスする手段を持っています。実際に時間さえあれば、すぐにスマホ片手にスクロールしている姿を、大学のそこかしこで目にします。しかし、そんな彼らと話してみると、特に「結婚観」や「家族観」については、驚くほど保守的な“日本的結婚観・家族観”を持っていることに気づかされます。
要するに、他人が新しい価値観を持って、それを実践しても構わない。しかし、自分は昔ながらの結婚をしたい、というのが本音です。
女子学生なら「ある程度の年収の男性と結婚して、専業主婦になりたい」、「自分も働いてもいいが、ある程度の生活の質を確保するために、男性にもそこそこの収入を望みたい」「結婚当初は賃貸でもいいが、いずれはマイホームを買って暮らしたい」「子どもは2人、なおかつペットと共に生活したい」「夫の定年退職後はあくせくせず、趣味の時間をたくさん持ちたい」。