「ブランドがお客様のファンでありたい」

インサイトの観点から考えても、2010年代終盤は若者たちにとって、つながりのうれしさが一巡して、踊り場に達していました。2017年に「インスタ映え」が新語・流行語大賞になり、SNSによるつながりの形は当たり前になり切っていました。

吉田将英『コンセプト・センス 正解のない時代の答えのつくりかた』(WAVE出版)
吉田将英『コンセプト・センス 正解のない時代の答えのつくりかた』(WAVE出版)

「いいね」を求める欲求がどんどん顕在化する一方で、他者からの承認ありきの毎日に対しての、疲れや違和感の声も徐々に顕在化していました。

人にどうウケるか? 「いいね」がつくか? 賛同を得られるか?

そういった顕在化する声の陰で、「本当はもっと、自分の思うような自分らしさに正直にありたい」という欲があるのではないか? 僕のそのインサイトの見立てと、園田さんのビジョンは、一直線の同じベクトルを形成できると思ったのです。

「きっとこのあたりにコンセプトはあるはず……」と、徐々に的が絞られていく最中、魚返さんから、コンセプトの素体ともいえる考え方がもたらされました。

普通のアパレルブランドは、お客様がブランドのファンになる。
でもウィゴーがやりたいことは要するに、ブランドがお客様のファンでありたいということなのではないか?

この考え方で、バイアスのひっくり返し方が捕まえられたと確信しました。ここまでの議論を本書で紹介しているコンセプト構文に当てはめて振り返ると図表1のようなかたちでしょうか。

バイアス(B)、インサイト(I)、ビジョン(V)をともなって、コンセプト(C)が見えてきました。そして、Cがつかめたうえで、ここまでのディスカッションのほぼ毎回、魚返さんが持ち込んだコーポレートスローガン案を再度見渡してみたところ、「YOUR FAN」という言葉が、実は2回目あたりの議論のときに出されていたことに立ち返れたわけです。

コピー単体ではつかみ切れなかったその言葉の可能性が、B・I・V・Cが構造化できたうえで見返すことによって、まったく違う「認知」として見えてくる。そして、最終的に園田さんはその「YOUR FAN」を、新生ウィゴーの法人としてのコンセプトの具現として、コーポレートスローガンに採択されました。