ディスカッションの繰り返しで視野をストレッチ

ウィゴーを通じて本当になしたいことは何か?
一番、向き合っていきたい誰か、とは誰なのか?
ここまでやってきて、自分たちの存在に一番感じているユニークネスは何か?
社会がどうなったら、この会社は解散してもいいと思えるか?
新社長として、変えていきたいことと、変わらずにいきたいことは何か?

理性と感性。事実と仮説。主観と客観。

いろいろな行ったり来たりを、緩やかな計画は持ちつつも基本的には非構造的なディスカッションを重ねることで、何度か繰り返しました。

その過程で「今回、コンセプトを見立てるに当たって、視野に入れるべき概念領域はどこまでか?」という、バイアスとインサイトの視野のストレッチを行なっていきました。

そもそも、服とは何なのか?
アパレル業とは何か?
若者とは何か?
個性とは何か?
原宿とは何か?
買い物とは何か?
ファッションブランドとは何か?
ストリートカルチャーとは何か?

「どうやったらもっと売り上げが伸びるのか?」といった議論はほぼせず、

「なぜわれわれは存在しているのか?」「われわれが存在している社会と、存在していない社会は、何が変わるのか?」「存在することで、誰がどう、今より幸せになるのか?」――そういったレイヤーで、議論に参加するメンバーの解像度を上げていきました。

生地見本を見ながらデザインの修正をするアパレルの現場
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです

ブレイクスルーは「ムカついてること」から

ディスカッションをしながら、並行して魚返さんによるコンセプトの「言語化」も行ないました。

ディスカッションして、視野を広げ仮説を模索し
それを言語化して複数のコンセプト仮説に仕立て
次のディスカッションの場に持っていき、園田さんからコメントをもらい
そのときの感触を土台にディスカッションを行ない……

これを繰り返しながら、並行して、「社会」の観察を行なうことで、議論の解像度を上げる。その過程で、のちのブレイクスルーの着火点になる問答にたどり着けた瞬間がありました。

「園田さん、このお仕事をされていて、ムカついていることってありますか?」

何かの流れでこの質問を僕から投げかけたところ、「ムカつくわけではないんですが、違和感を感じることはあって……」と、モヤモヤを1つお話してくださいました。

アパレル業界では、そのブランドの方針や、未来のトレンドの方向性を定めるクリエイティブディレクターという立場の役職があるのですが、「トレンドを決めるのはクリエイティブディレクターに決まっている」という業界の常識に、どうにも違和感を感じるというのです。

園田さんは、ファッションやカルチャーの未来のあり方は、クリエイティブディレクターの頭の中にあるのではなく、若者たちの日々の遊びや悩みの中にあると考えていて、そんな一人ひとりのすべての個性を、ウィゴーは「最高じゃん!」と背中を押したい。

若者たちのあらゆる「やってみたい」「なってみたい」という気持ちを、最初に受け止めるエントランスのような存在でありたい。そのような話をしてくれました。

「誰か、限られた少数の人がトレンドカラーを決めて、みんながそれに倣うのって、変だなあ」「そしてそれを当然のこととしているこの業界の考え方って、思い込みなんじゃないかな」

園田さんが感じているバイアスを「ムカつくこと」という、ジレンマを探索する問いから、ビジョンが一気に、言語化された瞬間でした。